第10話

 結果として、桜井と出かけることに成功した。


 本心を隠し、あくまで仁の誕生日のためなのだということを強調して桜井に頼み込んだのだが、本人は『全然いいよー』とあっけらかんとしていた。


 少し鼻息が荒かった気がしないでもなかったが、それは置いておこう。


 というわけで、俺と桜井はプレゼント探しのために街の中を歩いてた。


「それで、何か検討はついてるのかな?」


 桜井が尋ねてくる。


「適当なゲームにでもしようかと思ったんだが、あいつなら大体持ってると思ってな。結局やめた」


 仁なら面白そうなゲームは自分で情報を集めて買っているだろうし、何よりどこぞの後輩のせいで少々懐が寒くなっていた。


「あんまり高いものを買っても向こうがお返しをするときに困っちゃうからね。正解だと思う」


 お褒めの言葉を頂戴した。


 やはり、とりあえず褒めて伸ばす姿勢が皆から好かれる秘訣なのだろうか。


 そんなことを思っていると、桜井が非常に返答に困ることを聞いてくる。


「前はどんなもの贈ってたの?」


 正直にいうと、今まで俺達二人が誕生日にプレゼントを贈り合ったことなど無い。


 桜井と行動するために真っ当な理由を作っただけであり、そこを突かれると非常に痛い。


 毎回近くのカラオケやボーリング場に行き、片方の奢りでひたすら遊んでいただけである。


 何かそれっぽい嘘をでっち上げなければならない。


「…指ぬきグローブ?」


「なんで疑問形なのかな」


 思考がボーリングに引っ張られた。


「あいつは奇をてらったものが好きなんだよ」


 無理やり押し通すことにする。


「あ、でも確かにそれっぽいかも」


 赤いバンダナとか巻いたら面白そうだよね、と何気にひどいことを言っているが、ひとまず納得してくれたらしい。


「…仁とは長いからさ。たまにはまともな物贈ってやったほうがマンネリにならなくていいかなと」


 頭の中でこねくり回した言葉を、それらしい口調で吐き出す。


 嘘をつくならとことんやるべきである。


「きっと、何を貰っても高尾くんは喜んでくれると思うな」


 桜井は、俺に笑いかけてそう言った。


「そうかもな」


 ちゃんと仁へのプレゼントを考えてやらんでもない。


 そう思わせるほど綺麗な笑顔だった。

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