第9話

 その日の夜、俺はベッドの上で胡坐をかいて己のスマホと対峙していた。


「これより作戦会議を始める」


『いえーい』


 スマホの向こうで小鳥遊がぱちぱちと手を叩いていた。


『いやー、やっと先輩が重い腰を上げたんですねぇ…』


 長かったです…と勝手に感慨に耽っていた。


 少しだけイラっとしたが、今回は目をつぶっておいてやろう。


 事が事なのである。


 相談できる奴がいるに越したことはない。


「桜井が仁に気があることはほぼ確実といっていい」


 これまで彼女と関わってきた中で、やたら仁のことを気にかけているな、と思ってはいたが。


『なぁにが「桜井は俺に気があるかもしれない」ですか。あたしが先輩だったら恥ずかしすぎて三日三晩布団の中で唸ってますね』


「うるせえな」


 せいぜいさっき湯舟の中で思い切り叫んでいたぐらいだ。


『それで?なにか策はあるんですか?』


「おうともよ」


 人間吹っ切れると頭が冴えてくるものである。


「もうすぐ仁の誕生日だ。これを利用する」


 俺が風呂の中で考えたプランはこうである。


『仁の誕生日プレゼントについて悩んでいる。一緒に考えてくれないか』


 そういって、桜井と共にプレゼント探しと称して出かけるのである。


 桜井は悩んでいるクラスメイトを助けることができ、もしかすれば自身の想い人の情報まで手に入るかもしれないという一石二鳥の提案に必ず乗ってくる。


 はずである。


 とにかく、一度出かけることができればこっちのものだ。


 そこから、仁を餌にして何回か出かけていけばいい。


 彼女に仁の情報を提供していく中で、少しずつ俺という存在を擦りこんでいく。


『気のいい友達だと思ってたけど、もしかしたらあなたのほうが好きになったかもしれない』


 恋愛関係でよく聞く『キープ』を利用した、実に知的な作戦である。


 ━━━ということを小鳥遊に伝えた。


『先輩ってホントにどうしようもない外道ですね』


「策士と呼べ」


 令和の太公望だと自負している。


 はいはい、と小鳥遊が呆れていた。


『それで、あたしは何を手伝えばいいんですか?』


 画面に映っていた小鳥遊の顔が近づいてくる。


「いや、俺が思いついた壮大な計画を誰かに聞いてほしかっただけなんだが」


 こういうときに便利な存在である。


『じゃあ勝手にストーカーしときますね』


「勝手にしろ」


 補導されても助けてやらんが。


 鬼!悪魔!小●靖子!などと聞こえてくるが無視した。


「じゃあもう切るぞ」


 これ以上はただの雑談になりそうなので、切り上げようとカメラ機能を切り、通話終了のボタンに指をかける。


『先輩』


 先ほどまでうるさかった小鳥遊の声が、少し低めのトーンで聞こえてきた。


 小鳥遊はそのまま続ける。


『もし上手くいかなかったとしても━━━』


 何かを言おうとして。


『いえ、上手くいくといいですね!』


 結局、やめてしまった。


「上手くいくに決まってるさ」


 小鳥遊が何を伝えようとしたのかは気になるが、心配は不要だ。




 だって、俺がやろうとしていることは━━━

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