第8話

「でさ、もう少しで撃破だって油断してたら第二形態があってね。ボコボコにされたわけ」


 案の定、仁は昼休みにやってきた。


 今の今までプレイしていたのだろう。


 目元にくまができていた。


「面白過ぎて朝ごはん抜いてきちゃったんだよね」


 そう言いながら、メンチカツをもしゃもしゃ咀嚼している。


「なぁ仁」


 ひとつ、聞いてみることにした。


「なにさ」


 一人で盛り上がって喋っていたところに水を差されたため、仁は少しむすっとした表情で俺に応答する。


 どこまでも自分勝手な奴である。


 遠回しに聞いてやろうと思っていたが、ムカついたので直球で聞くことにする。


「お前桜井のことどう思ってんの?」


 ぶほぉっという音と共に、目の前にいる仁がむせていた。


 ちょっとだけメンチカツの残骸がトレイに転がっている。えんがちょ。


 思いのほかクリティカルヒットだった。


「なんで急にそんなこと聞くのさ…」


 水を流し込んで落ち着いたのか、疑問を投げかけてくる。


 なんでと聞かれても、桜井があんなことを言っていたので当の本人はどう思っているのかを知りたいだけである。


 桜井のプライバシーに関わるため、本当のことを話すわけにもいかない。


「昨日の放課後に、仁があんなに桜井を励ましてたのが引っかかってな」


 それらしい理由をすぐに思いついた。


 将来は詐欺師になれるかもしれない。


「別に、あんなの普通だよ。あれぐらいキミだって言えるさ」


「俺だったら恥ずかしすぎて逃げ出したくなるわ」


 こいつがここまで天然だとは思っていなかった。


「桜井さんは面白い人だなって思ってるし、普通に仲のいいクラスメイトだよ」


「…そうか」


 これ以上詮索するのは仁に怪しまれそうだったので、話を切り上げることにした。


 仁は桜井のことを悪からぬとは思っているが、それ以上でもそれ以下でもない、と。


 ならば。




 俺のやるべきことは、ひとつである。

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