第2話

 断言しよう。


 桜井さくらい咲希さきは間違いなく俺に惚れている。


 今日だって、食堂全土を巻き込んだ俺と仁による大決戦を観客の一人として笑いながら見ていたし、応援の声もどちらかというと俺へのエールのほうが多かった気がする。


 ちなみに、面白がった野次馬共が、勝手に俺達二人を大将として結成された醤油軍とごま油軍による戦いは、『マヨネーズをかければいいじゃない!』という桜井の鶴の一声により、ひとまずの決着がついたのであった。


 そんな波乱の昼休みを終え、午後の授業も頑張ろうかと思っていた矢先━━━




 ━━━俺、仁、桜井の三人は、生徒指導室で反省文を書かされていた。




「そろそろ書けたか」


 俺達三人の担任であり、国語担当の村田が、重々しい声でそう告げる。


「もう少しで俺が如何に仁を討ち取ったかの伝記が完成するので待っていただけますか」


 思いのほか筆が乗ってしまった。


 これも村田による授業の賜物ではないだろうか。


「村田先生、ここは『僕は見事、敵の裏をかいて醬油軍の内部を崩壊させた』よりも『敵を味方として引き込み、懐の深さを見せた』のほうが英雄らしいですかね」


 右隣を見ると、仁は原稿用紙を大げさに掲げながら村田に教えを請いていた。


「何故お前達二人はその集中力を普段から活かせんのだ…」


 褒められてしまった。


 仁と顔を見合わせて、互いの健闘を讃える。


「後五枚追加だ」


 互いの反省文が、高らかに宙を舞った。


「先生。できました」


 そんな声が聞こえたので、ふと左をみると、桜井が村田に状況説明文を提出していた。


 本来ならば、彼女は何も悪くはないのだが、あの場を治めたとして一応同行してきたのであった。


「よし、桜井は戻っていいぞ。すまなかったな」


 後で事情は先生が伝えておくから、と付け加えて村田が桜井を入口まで見送っていった。


「いえいえ、失礼しました」


 桜井は一礼すると、俺達二人に向かって小さく手を振ってきた。


 なんだか小動物のようである。


 同時になにやら口をパクパクとさせているので、何事かと思ったが、すぐに気付いた。


 なにかを伝えようとしているらしい。


 目を凝らして、彼女の小さな口を注視する。


『あとでみせて』


 笑いを耐えきれず、吹き出しそうになったが、なんとか堪えて彼女にサムズアップで返す。


 やはり桜井は、俺に気があるのではないだろうか。


 去っていく桜井を尻目に、超大作になる予定の原稿用紙へとシャーペンを滑らせた。

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