第5話 エピローグ

「翔いる?」

「いるよー。」

日曜日の午後の事だ。

俺はベッドに寝転びゲームのストーリーをコツコツと進めていたらコツコツとドアを母さんがノックしたのが聞こえた。

一言返事をしてムクリと起き上がりドアを開けるとやや不安そうな顔をしていた。

そんな母さんの表情を見ていると俺もつられて不安になっていく。

「どしたの?」

と尋ねると母さんは固くなった表情を緩めて手元にある封筒を差し出しながら言った。

「ずっとこれを渡そうか迷ってたんだけどね。」

「これ何?」

その封筒の翔へと書いている裏側を見ると俺は目を見開いた。

慌てて封筒の蓋をビリビリ破いて開けると綺麗な背景の便箋が入っていた。

俺はその2つ折りの便箋を広げた辺りから息が荒くなり、読み進めると息が止まりそうになった。

そんな見るに堪えないほど死にそうな顔をする俺を心配...というか慌てたように母さんは「苦しいなら読まなくていいわよ!」と言って俺の肩を揺さぶる。

そんな声も届かないほど必死で読み進めると「〇〇より」にたどり着く前に泣き崩れた。


「どれだけ俺を泣かせればいいんだよ。」


高校2年の俺は一言の想いを叫んだ。


〈手紙の内容〉

三崎翔へ


 この手紙はもしも私が翔の傍から離れてしまった時のために書いた手紙です。この手紙を読んだら捨ててしまっても構いません。 

 翔を1人にさせたのはお母さんである私の責任です。本当にごめんね。私は子供の頃は家族と距離があり、独り寂しい思いをしてきました。なので、彼、お父さんとの結婚を機に家族との縁を切りました。私は彼とならやっていけると信じてきましたが、結果的に翔を苦しめることになってしまいました。頼れる人もおらず、何とか翔を幸せにしようとしましたが今度は翔をひとりぼっちにさせてしまいました。翔の傍にもっといれば良かったととても後悔しています。もし、私とお父さんが翔の傍から離れた時、きっと多くの方に出会うでしょう。施設の人に出会うのか、新たに翔の親になってくださる人なのかは私には分かりませんが、どうか翔が幸せになってくれることを心から願っています。翔、心から愛してます。


三崎明子より


「俺は母さんにとって必要無い人じゃなかったんだ...。」

母さん、俺の隣にいる人は施設の方ではないよ。

俺の隣にいる人は今じゃ8年目になる新しい母さんだ。

俺も母さんの事がとても大事だ。

実の母さんも、新しい母さんも...


〜黒臣様〜


〈拝啓〉

三崎翔様と高木美紀子様、そして彼岸にいらっしゃる磯至翔様、ソラ様の幸せを確認致しました。

〈敬具〉


「桜姉様の世話焼きには逆らえんのう。わしが仕組んだんじゃから知ってる、ての。」

そう言いながらも、黒臣様の心は穏やかに暖かくなりつつあった。


END

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