第4話 空は快晴だ!!

〜さらに3年後〜


「兄さん。」


高校2年の俺は母さんの実の息子である磯至翔のお墓に来ていた。

高校は毎日お墓に通えるようにこの近くの高校に進学した。

「兄さん、今日はあの時の話をしに来たんだ。空が死んだ日の話。」


〜回想〜


中学2年、3月2日。

俺は母さんに車に乗せられた。

「会わせたい子がいるの。」

母さんはそれ以上何も言わなかった。

学校を休まされてまで行く場所とはどこなのか。

会わせたい子とは誰なのか。

俺は考えもしょうがないことを考え黙って車に揺らされて外の景色を眺めていた。


「・・・墓?」


母さんは「こっちよ。」と言って先を歩いた。

その後を着いて行くとある名前が彫られているのを見てヒュッと息を飲んだ。

「隠すつもりはなかったんだけどね。私の子よ。」

「磯至?」

実の母の三崎になる前の苗字だ。

そして俺と同じ名前。

母さんはこの同名が彫られる墓に入っている人の事を話した。

母さんの子はお腹の中で亡くしてしまった事。

母さんの旦那さんは俺の実の母親のいとこだということ。

その旦那さんとは今は離婚していること。

「話すタイミングをずっと考えていたんだけどね。まさか空が死んじゃった日になるなんてね。」

母さんはふふっと笑ってこちらを見た。

俺は衝撃的な事実を知らされて少しばかり混乱している。

あのいつも笑っている母さんの過去にそんな事があったとは。

俺はじっとその彫られた名を見ていると母は言った。


「泣いていたって空は晴れるよ。」


ぶわっと滝が流れ出る感覚がした。

きっと俺の顔はぐちゃぐちゃだ。

「見ないでくれ。」とでも言うように顔を背ける。

そんな俺を後ろから優しく抱擁する母さん。

「そらぁ〜、そらぁー、そら・・・。」

「空」と何度も口ににする。

正直嗚咽のせいで言葉になっているのかはあやういところだ。

そんな俺の耳にもう一度そっと吹きかけられる言葉。


「泣いていたって空は晴れるよ。」


『泣いていたって空は晴れるよ。』という言葉に抗う事なく、空は綺麗な快晴だった。

(空は晴れていて。)と最後に心の中で呟いたのを覚えている。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー・・・


「兄さん、空は元気かな?」

あの散々泣き腫らした後、俺は磯至翔を兄さんと呼ぶ事と天国で空と一緒にいて欲しいというお願いをした。

その約束を了承してくれたのかは分からないけど、少なくとも母さんは「絶対にOKしてくれてるわ。」と揺るぎのない返事を兄さんの代わりにしてくれたからきっと大丈夫だろう。

「今でも後悔していることが沢山あるんだ。空とやってみたい事まだまだあるのに。あれから3年くらいかな?俺は元気だよ。毎日なんとなく楽しい毎日過ごしてる。兄さん、空を宜しく頼む。今までも、これからも。」


『泣いてたって空は晴れるよ。』


その言葉がいつまでも空に溶け込むように輝いている。

明日は3月2日。

空の命日だ。


今日も空は快晴だ!!


〜空は快晴だ!!〜


『ありがとう、兄さん。母さんと空に会わせてくれて。』


「アリガト、アリガト、アリガト、、、。」

天国と呼ばれる彼岸の世界で、僕とインコの空は翔の話を耳をすまして聞いていた。

空は僕の肩にちょこんと座って「アリガト。」と連呼する。

そんな空の頭をよしよしと撫でた。

「空は可愛いな。本当、僕に弟ができるとは。」

彼岸の世界には大きな池があり、そこには此岸の様子が映し出されている。

「磯至翔様。三崎翔様はどのようなご様子で?」

僕を呼ぶ紅葉様は微笑んで言う。

僕はパッ!と紅葉様に振り返って叫ぶように言った。


「快晴だ!!!!」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー・・・


池に溶け込むように映っていたのは三崎翔の快晴のような笑顔だった。

そして、池に映る快晴は翔と空を繋ぐ大切な思い出。


『溶質快晴』僕の空

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る