第35話 デート回
お久しぶりです。リハビリも兼ねてなので今回は少し短めです!
********
デート。
それは恋においては無視できない重要なことである。
一般的にデートとは恋仲の二人あるいは恋愛を期待している者が行う行為だ。
現状、花井美陽は俺のことをまるで意識していない。精々、不出来な弟子、あるいは可愛らしい女の子を奪い合うライバルと思っていることだろう。
間違っても異性としてはそこまで意識していないはずである。
だが、今回のお出かけを花井美陽はデートを言った。
つまり、これは彼女からの挑戦状である。
『陽翔も男なら、仮にも女の子でもある私をときめかせてみせなよ。まあ、後輩の子からろくに連絡先も聞きだせない君には不可能だろうけどね』
花井美陽の挑発的な笑みが簡単に思いつく。
面白い。ならば、俺が花井美陽から学んできた全てをもって正々堂々とこのデートに挑んでやろうではないか。
今日の目標は花井美陽をときめかせることである。
あわよくば花井美陽に、
『ふっ。陽翔、君がナンバーワンだ。明日からクラスの王子様の座は君のものだよ』
と敗北宣言させてやる。
「そして俺は名実共にモテモテの学園ライフを手に入れるのだ! あーっはっはっはっは!!」
「……人の多い駅前で突然高笑いを上げるのはどうかと思うよ?」
「うおっ!?」
背後の声に振り返ると、そこには花井美陽の姿があった。
腕時計に視線を落とすと、花井美陽と待ち合わせをしていた約束の三十分前である。
さすがは花井美陽と言うべきか、デートにおいては一度は誰もが耳にしたことがあるであろう
『ごめん、待った?』
『ううん、今来たとこ』
というファーストトキメキポイントを譲る気は無かったらしい。
普通なら、集合時間の三十分前に来る奴などまずいない。いるとしたら野球部くらいだ。
いや、野球部だとしてもプライベートで三十分前集合を守る奴なんてほとんどいない。
だが、花井美陽は相手をときめかせるというただそれだけのために三十分前に来たのだ。恐るべし、流石は我がライバル。
まあ、ここでは俺の方が一枚上手だったようだがな。
俺は万が一にもこのトキメキポイントを奪われることがないようにと今日の朝十時からスタンバイしていた。
花井美陽との約束は駅前の噴水に一時集合。つまり、驚異の三時間前集合である。
「三十分前だから、まだ来てないかと思ったけど陽翔も来てたんだね」
「まあな。安心しろ三時間も前から待つなんてことしてないぞ。ちょうど今来たところだ」
完璧である。
花井美晴が「もし陽翔が三時間前から来ていて、二時間半も待たせてたら申し訳ないな」という罪悪感を万が一にも感じることがないように、ちゃんと否定もしていた。
これには花井美晴も「気遣いが出来る人、素敵」と内心ドキドキに違いない。
「はは、わざわざ言うってことはもしかして三時間前に来ていたのかな?」
な!? こ、こいつエスパーか!?
「そ、そそそそんなわけないだろ! 丁度今来たところだよ!」
動揺のせいか声が上ずってしまった。
これはまずい。こんな隙をさらしては花井美陽に主導権を握られてしまう。
ここは改めて主導権を握り返す必要がある。
そうだ。昨日の夜に徹夜して組み上げ、丸暗記までしたトキメキデートプランを思い出せ。
出会って最初は服や髪型など見た目を褒める!!
急いで花井美陽の服と髪型をチェックする。
ここで的外れな発言をすれば逆に失望されてしまう。失敗は許されない。
入念にチェックしなければ。
文字通りつま先から頭のてっぺんまでじっくりと見つめる。
ベージュのパンツに真っ赤なノースリーブのニット。
更にその上からデニムジャケットを羽織っている。そして、髪型も毛先を軽く跳ねさせていた。
なるほど。よし、分析完了!!
「は、陽翔? 無言でジロジロと見つめられると私としても恥ずかしいんだけど……」
「花井美陽のスタイルのよさもあり、全体的に綺麗さと大人っぽさを押し出した素晴らしい格好だな。だが、デニムジャケットを羽織ることでカジュアルな雰囲気が出ていてデート相手ともいえる俺の緊張感が柔らいだ。俺への配慮が感じられて一瞬ドキッとしました! ありがとうございます!!」
あれ? なんで俺頭下げてんの?
しかも、ドキッとしただと!? ふざけるな! 今日は俺が花井美陽をときめかせる日だ。
間違っても俺が花井美陽にときめく日ではない!
このままだといけないと顔を上げると、花井美晴は恥ずかしそうに少し跳ねた毛先をいじりながら流し目で俺を見ていた。
「そ、そう?」
トクン、と心臓の鼓動が響く。不整脈だったらまだよかった。
「可愛い!!」
「へ……?」
「ちくしょおおお!! 可愛いいいいい!!」
「ちょっ、周りに注目されるからそんなに騒がないでくれよ!」
「イケメンのくせに可愛いとかいう二刀流やめろよおおお!!」
「ああ、もうほら行くよ!」
花井美陽のポテンシャルを前に屈してしまうという屈辱感を味わいながら、俺は花井美陽に手を引かれ駅前を離れた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます