幕間・世界

■■

 世界は一つではない。可能性の広がりとともに無数に枝分かれする。

 ある結末を辿る現世もあれば、それとはまったくべつの姿を見せる現世もある。

 肉体の死後に魂が辿り着く楽園もまた、異なる道の数だけ無数に存在する。

 そして記録の大樹ツリーは、その枝分かれした全ての世界と繋がっている。大樹から得た情報を管理している司書のレッドは、この世界とは異なる道を進んだ世界を観測することができた。

 今ここにいるレッドは、こことは違う宝石化症候群という名の奇病が蔓延した世界の情報を眺めていた。

 人が石化していくという恐ろしい出来事だが、こちらの世界でも今それと少し似た感染病が流行っていた。主に飛沫感染で人から人へ伝染していく病気。他人との物理的距離が保たれる時代になったのは宝石化症候群と似た状況だ。恐怖と混乱の最中、内に潜んでいた人間の醜い一面が顕在化することになった事実も。この二つの病気は同じく、神が地球という惑星に存在する人類に与えた課題だったのかもしれない。

 レッドが他の世界を眺めるように、今この時この世界を眺めている存在もいるかもしれない。今レッドの脳裏で行き交っている思考も、記録の大樹ツリーが読み取り記録しているからだ。

 もしかするとその読み取られた情報は、「物語」という形で表現されている可能性もある。例えば、宝石化症候群という奇病はまずまず良い題材だ。人々がこの病に苦しみ時に非業の死を遂げる様は、ストーリーとして良い味つけとなるだろう。記録の大樹ツリーのある宇宙空間で無限に増殖を繰り返し宙に漂っている本をしらみつぶしに確認していけば、そういった物語も見つかるかもしれない。



 レッドは浮世の鏡シアターのロビーのカウンターに肘をつき手に顎をのせた状態で、あることを考えていた。

 最近この世界で見なくなった、■■という名の少女のことだ。

 彼女は、特別な存在だった。

 彼女は、世界を渡れる。

 そして、全ての世界を通じて一人しかいない。

 無数に枝分かれするそれぞれの世界では、基本的にそれぞれに同じ人間が存在するものだ。しかし、あの少女はその法則に当てはまらない。

 彼女は今、どの世界にいるのか。

 もしかすると彼女は今、■■■■■■■■■■■■■■■■。



***



 さあ■ろそろ物■も山■だよ。

 こ■まで楽■■でく■た?

 大切■人をつ■去■れ■■女は、どう■■■だろ■■。

 そ■目でし■と見■け■ね。

 彼■の■意を。

 ■たし■そ■先■待■■る■ら。

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