理由

 ロビーのカウンターには、先ほどと同じようにテーブルに肘をつく気だるそうなレッドがいた。彼は恋火たちに気づくと顔を上げた。

「おっ、よう」

「ええ」

 恋火は淡白な挨拶を返す。

「どこ行くんだ?」

「世界の果て、とか?」

「俺とデートしないか?」

「しない」

「即答だな。こう見えても俺は」

「美人のケツばかり追いかけてる男でしょ?」

「そう見えるか?」

「あなた、暇なの?」

「そうとも言えるし、まあ、そうだな」

「それじゃ」

「シー・ユー・アゲイン」

「機会があれば」

 恋火と風楽はロビーの扉から出て、恋火が未だ覚束ないあの宇宙空間のような場所に出た。そのまま一直線に元来た入口へ向かう。扉を開け、魂の庭ガーデンへ戻った。

 風が草木の匂いを運び、優しく肌を撫でていった。

 草原と、ところどころに花畑の広がる光景。綿菓子みたいな雲が地面のすぐ近くを漂っている。遠くに天を貫く螺旋の塔タワーが見えた。

 恋火はスーッと大きく息を吸い、それからゆっくりと吐き出した。今自分は、肉体のない魂のみとなった存在らしい。こうやって五感で感じる感覚は、そのように錯覚させているだけなのだろうか。風楽に訊いてみようかとも思ったが、また回りくどくあしらわれそうな気もしてやめておいた。

「何か訊きたいことがあるんですか?」

 まるで恋火の思考を察したように風楽が言った。

「よくわかったね」

「僕がどれだけ長い間あなたと過ごしてきたと思っているんですか」

「どれぐらい?」

「えっ? うーん。いざ訊かれると、明確に答えるのは難しいですね」

「私と風楽は、現世でも出会ったの?」

「はい。何度も。転生を繰り返すたびに。示し合わせたように」

「どうやって?」

「僕たちはお互いに引き合う。波長が合うという言い方をするんですが。僕らの魂はそういう関係なんです」

「気が合うってこと?」

「はい。グループソウルという言い方をします。そして、先ほど映像に出てきた水羽と愛地という二人の人物。彼らとも、何度も人生をともにしてきました」

「そうなんだ。私は覚えていない」

「はい」

 風楽は悲しそうに俯いた。

「どうして?」

 恋火の問いを受けて、風楽が彼女に視線を向ける。

「どうして私は記憶を失ったの?」

 風楽の碧の瞳が悪戯っぽく光った。

「知りたいですか?」

「教えて」

「ふふ、どうしようかなあ」

「蹴られたいの?」

「恋火さんになら、蹴られてみたい気もします」

「バカ」

「冗談ですよ」

「知ってる」

 恋火はそこで口を閉じ、風楽の言葉を待った。

 風に乗った花びらが宙を飛んでいく。

「恋火さんが記憶を失ったのは」

 風楽は一度恋火から視線を逸らし、記憶を辿るような表情をした。

 それから、今度は真っ直ぐ向き合い、言った。

「あなたが僕を救おうとしたからです」

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