水業・救済
バージンロード
光の道。
時に険しく、時に心許ない、それでも確かにこの足で歩んできた道のり。
座席の列を左右に見ながら。
真っ直ぐに伸びた祭壇への通路。
愛する彼の待つ場所へ。
彼、
水羽はそこへ近づいていく。
彼が振り返った。
精悍な顔つき。逞しい体格。鋭さの中に優しさのこもった焦げ茶色の瞳。
私を見つけてくれた、その瞳。
水羽は彼の目がとても好きだった。
私を映し、一人きりの心細さを消し去ってくれる。
いつだって支えてくれる。
彼の象徴。
水羽は愛地の胸に飛び込んでいった。
彼の温もりと匂いの中に。
彼は少し戸惑いつつも、その両腕で水羽を包み込んだ。
「どうしたの?」
微笑みながら、彼が訊いた。
「ううん。なんでもない」
水羽は首を左右に振ってから、彼に微笑み返す。
安心したような彼の顔がすぐ傍にある。
このまま永遠の時を過ごしたいとさえ思ったが、礼拝堂の不気味なほどの静けさが二人を貫いた。
水羽はゆっくりと俯き、波に流されるかのように彼の体から離れた。
彼の視線を感じながら、それでも水羽は顔を上げることができない。
その場には二人の他に誰もいなかった。
まるで世界から切り離されてしまったかのような寂しさが募る。
「いつか」
愛地が礼拝堂奥のステンドガラスを見つめながら、口を開いた。
「状況が落ち着いたら、式を挙げよう」
彼の顔には、喜びよりも憂いが色濃く滲み出ていた。
水羽は彼の言葉に頷き返すことができなかった。
そのいつかは、果たしてやってくるのだろうか。
この日は全国で3641名の人間が石になった。
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