第9話「失恋相手・蓬川愛子との再会」
あの蓬川さんとついに対面するのだ。
――あきら君の気持ちはとても嬉しいのですが…ごめんなさい
フラれた記憶が蘇る。
いや、二周目なのだから緊張する必要はない。
分かってはいるが、あの瞬間がトラウマとして僕の心臓の鼓動を早くする。
「え…あ、入部希望の新入生ですよね…」
つい挙動不審に受け答えしてしまう。動揺を隠せるほど器用ではない。
「そうそう!ここが分かんないっぽいからあっきーが入口までお迎えしてあげてくれない?仙田くん一人で放置しておくのもアレだしあたし待ってるよ」
僕の心中なんて知らない天城さんは新入生同士の交流を大事にしたいらしく、僕を迎えにやろうとしている。
断ろうか。いや、ここで断ってしまったら僕は一生蓬川さんをトラウマとして認識するだろう。
僕は了承すると、彼女は蓬川さんのLINEのトップ画像を見せて顔を確認させた。
顔写真を見るだけでフラッシュバックして胃に穴が開きそうだ。
意を決して靴を履き、蓬川さんが待つ方へと歩み出した。
心臓がバクバクする。
これから会う蓬川さんは一周目の彼女ではないのだ。
緊張する必要など無い。
それに、今すぐに告白するわけじゃないんだ。
しかし、これからまたあの娘と会うってなると何とも形容しがたい不安が押し寄せる。
公園の入り口が近づくにつれて無機質な街々が明らかになり、現実を突きつけられているような感覚に陥った。
疎らにいる人々の中から蓬川さんを探す。
もしかすると居ないかもしれない。
また後日会えればそれで良い。
後回しにしたい。
だが、残念なことに蓬川愛子はいた。
ハーフアップで肩に掛からないぐらいに整えられた黒髪、眠そうな二重のたれ目は小動物感溢れる愛らしさを放っており、何より化粧をしていないにもかかわらずこの可愛さを実現させている顔立ち、首元にフリルがついた黒のカットソーに淡い茶色のフレアスカートで清楚感を際立たせていた。
蓬川さんは、佳麗に咲き誇る桜を見つめながら隅の方でぽつんと佇んでいた。
あぁ、やっぱり可愛い。
僕ごときが邪なことを想起するのはあまりにも恐れ多いことであるが、桜を眺める蓬川さんの絵面は僕の恋心を奮い立たせてくれた。
緊張を押し殺そうと努めながら、思いきって彼女に声をかけた。
「よ、蓬川さん?」
呼びかけの方へとサラっと髪を靡かせて振り向いた。
「えっと…LIFEる!のサークルの方でしょうか?」
その問いかけで一周目の彼女とは別の蓬川さんであることを確信することができいくらか安心することができた。
僕だけが感じる気まずさが徐々に払拭されていく。
「うん、僕は新入生の阿合あきら。先輩に言われて蓬川さんを迎えに来たんだ」
「あら、同じ一年生なんですね。私は蓬川愛子です。どうぞよろしくお願いします」
蓬川さんはペコっと頭を下げて丁寧に挨拶をする。釣られて僕も頭を下げる。
「じゃあ天城さんも待っているし行こうか」
業務的な会話を手短に済ませて天城さんのところへ戻るため踵を返そうとすると、蓬川さんの腹部辺りから「くぅぅ」と可愛らしい悲鳴が聞こえたので音の方に目を向けると彼女の赤らめた頬が窺がえた。
「お恥ずかしい音が鳴ってしまいました…実は朝から何も食べてなくてお腹が空いていて…」
「そっか。近くに屋台もあるし何か食べようか」
「屋台…。子供の頃に初詣で屋台を見て回ったときに迷子になっちゃったことがあって…。それ以来、こういうところってちょっと慣れていなくて。どうしようかな…」
彼女は露骨に不安な表情を見せる。
「じゃあ人が多いところは避けようか。端の方の屋台だったら人ごみは落ち着いているだろうし。蓬川さんがはぐれないように見てるから大丈夫だよ」
「あ、ありがとうございます…!それでしたらぜひ行ってみたいです!」
蓬川さんはぴょいと僕の隣に移動して「エスコートよろしくお願いしますね」と微笑みかけた。その言葉に思わず頬を染めてしまった。
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