第8話「仙田は公然猥褻罪でどうぞ」
先ほどの花見の場所に戻ると大変なことになっていた。
何が大変かと言うと、仙田はパンツ一枚になって最近巷で流行りのアイドルグループのダンスをしているし、それを見ている明神池さんは一升瓶を片手に声量も抑えずゲラゲラ笑っていた。足立さんは一足先に酒でつぶれて明神池さんの膝の上で寝ていた。
幸いにも辺りの花見グループも完全に出来上がっているようで、仙田の舞いを見て笑っていた。
これが、一般家庭の平和な団欒の場であったりツイッタラーの集いが近くにあれば、下手をすれば仙田は公然わいせつ罪でお縄になり、僕たちのサークルは簡単に炎上していたことだろう。
明神池さんは僕たちに気がつくと「うぇーい!!まあ座れや!」と言って手招きした。
一周目の僕ももしかしたら仙田二号として舞っていたと考えるだけで頭が痛い。
「仙田くん何やっているの!!」
天城さんは仙田の愚行を止めさせ、服を着るように促した。
すると、仙田は何を血迷ったのか、とんでもない発言をした。
「ゆーなせんぱーい。さっきの伊那谷さんとあきらで3Pをトイレでもしてきたんですか?あ、その手に持っているのは白濁したあの液体…?ってか、おいあきら!お前何ソーセージ食ってるんだよ!俺よりもデっけぇブツ咥えんなよってか!はははっ!!」
仙田は完全にセクハラマシーンへと化していた。お酒の力ってやっぱり怖いものだ。これは収拾をつけるのも一苦労だろう。
俺はともかく、こんなことを言われた天城さんの顔を見るのはとても怖かったが彼女の方へ目をやった。
しかし、彼女は冗談を受け流すかのような何気ない様子で微笑みの表情を見せた。
その微笑みは介抱に向かうときに見せた、あの作り笑いにも感じられた。
「もー、仙田くんったら。あたしだから良いけど他の女の子に絶対そんなこと言っちゃだめだよ!」
天城さんは、踊り疲れてへなへなと萎むように座り込んだ仙田に近づいて座ると、仙田の額をデコピンした。
仙田はデコピンを受けた額をさすると、天城さんの膝に倒れこんだ。
「こうなったら足立先輩に対抗して俺もゆーなせんぱいの膝枕を堪能してやる!」
そして、仙田は「あとはもう知らん!」と言ってそのまま寝息を立て始めた。
天城さんは自分の膝に寝だした彼の頭を撫でる。
僕はその様子に自分の彼女でもない癖に嫉妬に近い感情を覚えた。
「仙田くん、もう本当にしょうがないわね…。まり姉もダメですよ!仙田くんはまだ新入生なんだからお酒のキャパシティも分かってないんですよ」
明神池さんは興ざめた様子で手酌して日本酒を飲む。
「ま、これが洗礼ってやつよ。でも仙田くんは将来有望ね。私の彼と飲み比べして勝っちゃうんだもん。私の後を継げるわ」
彼女はうんうんと頷きながら、飽きることなく酒を啜っていた。
そして腕時計を確認すると、残りのお酒を飲み干して脱いでいたジャケットを羽織った。
「もう時間だから私たちは引き上げるわ。後は楽しくやってね!」
明神池さんは膝で寝ていた足立さんを起こし、眠そうながら立ち上がった彼に肩を貸してその場から離れていった。この調子じゃ明神池さんは今日の面接をばっくれるだろう。
残された僕たちは仙田が起きるまでここから離れることができない。
とりあえず僕はどこかで仙田が羨ましく感じていたので、服を着させるという口実で強引に服を身に付けさせて天城さんから離してやった。
ついでだからと、汚く散らかった空き缶や紙コップ、お菓子の袋などを分別して袋に入れていく。
そんな僕に天城さんは申し訳なさそうな眼差しを向ける。
「とんでもない新歓イベントに招いちゃったね…。あっきーごめんね」
「平気ですよ。むしろこういうワイワイしている感じの方が面白いじゃないですか」
僕は作業をしながら彼女に答えた。
実のところ、僕はこのようなどんちゃん騒ぎ感が好きである。僕はお酒の力を頼らないとテンションを明神池さんたちに合わせることができないが、逆に合わせてしまうと自分も陽キャの仲間入りをした感覚で自分に酔うことができるからだ(僕が酔いすぎて今日のような第二の仙田になるのだけは御免だが)。
「あっきーも変わり者なんだね」
「変人じゃなかったら伊那谷さんを見た時点で帰ってますよ」
天城さんはクスっと笑って「そうだね」と相槌を打ちながら加わってゴミを分別する。
一緒に後始末をしていると、天城さんのスマホから通知音が鳴る。
「あ、蓬川さんもう着いたんだって」
その言葉を聞いて僕は身を震わせた。
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