第5話 メジャーRPG<竜探索>へのある翁の転生(2)
このシリーズはどんどん当初の予定からずれています……。せめて<竜探索>も短編として完結させねばなりません。
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<竜探索>の世界に異世界転生したわしじゃったが、数多の異世界転生が行われたこの世界は近代文明に<汚染>されておった。足りない技術・素材は魔法で補ったスチームパンク的な近代化を遂げていたのだ。
剣と魔法のファンタジー世界を期待していたわしにとっては残念きわまりないことであった。
だが人間、文明の利器には勝てない。衛生的で快適な文明社会の恩恵は偉大なものがあった。
トイレ一つとってもそうであろう。わしもこどものころにはウォシュレットどころか水洗ですらなかったが、この世界も本来であればそうだったであろう。だが実際にはウォシュレットもどぎがあった。それどころか魔法で即座に浄水されているというのだから、地球の下水よりも優れておろう。
一方で大量の転生者の存在はこの世界に快適をもたらすだけではなかった。わしは田舎に住んでいたので、あまり実感できない部分もあった。それはこの後の話の中で明らかになるじゃろう。
諦めと堕落をしたわしもあれから17年経過して18歳となった。
この世界ではもともとは15歳が成人年齢であったのだが、文明汚染の結果、成人年齢は18歳に上がっていた。
これまでずっと両親の住むこの小さな村で過ごしてきたのだが、わしはこれから王都で丁稚奉公、ではなかった商会に就職することになっていた。
「それでは行ってきます」
わしは出立に当たって両親に挨拶した。
18年間の新たな人生で頭の中はともかく、表面上は若者らしい言葉遣いができるようになったのじゃ。
「これまでありがとうございました。王都で一旗揚げて戻ってきますよ」
「あんまり頑張るんじゃないぞ」父はわしの肩を叩いた。
「そうよ。無理は禁物。ときどき顔を見せに戻ってきて頂戴」母も言う。
我が家の両親はどことなく世間ずれしているというか、のんびりしているのだ。養蚕で儲かっているから余裕があるのだろう。
村から王都への交通手段は<高速バス>じゃった。
王国内には幾つかの幹線道路が整備されていて、そこを魔法エンジンで動く木製のバスが走っているのだ。木製といってもこの世界固有の鉄並みに固い木を使っているとのことで、頑丈さにはまったく懸念はない。
運転席には魔法使いらしいマントを羽織った男性が座っていた。だが握っているのは杖ではなくてハンドルだ。
支払いは<リアマジカ>というカードで行う。
これもわしがこの世界でがっかりしたことの一つ。わしは金貨・銀貨・銅貨を期待しておったのだが、この世界ではもはやそれらの硬貨を店頭で実際に使うことはほとんどないのだ。
<リアマジカ>は前世でのス○カあるいはバーコード決済のようなものだ。簡単な端末(マジックアイテム)で決済を実現できるので、わしの住んでいた田舎の村でも使われていたほどだ。
この決済システムは銀行に貸金庫のような口座があって、実際にそこに預ける=しまってある金が魔法によって出し入れされるという。デビットカードも真っ青な即時・実体決済システムになっておるのだそうだ。魔法・ネットワーク的なのに実体はむしろ前時代的な金本位制というところがこの世界らしいとも言えるかもしれぬ。
わしはそもそもクレジットカードとデビットカードの違いもよくわからんでおったから、この説明も正しいかどうかわからぬが。
<高速バス>というだけのことはあって、このバスで一日かければもう王都に到着じゃ。深夜バスのようなものじゃな。
わしは朝焼けの中バスを降り、こわばった体をほぐしながら周囲を見回した。
わしがお世話になる<井戸角商会>は中堅どころの手堅い商売をしている商会だ。わしの住んでいた村にも年に4回は隊商でやってきて臨時の商店を開いてくれていた。そういったことを各地で行っていて、それぞれの儲けは少ないが数が多くて成り立っていた。
場所は詳しく説明を受けていたので商会本部へと向かって歩いて行く。
さすがに王都だけあって様々な人が歩いている。人間が多いが、エルフやドワーフ、竜人、虎人など様々だ。
さらに肌が紫色の魔人も歩いていた。
わしの住んでいる田舎の村には魔人は住んでいなかったので、たまにちょっとだけ見かける旅人ぐらいでしか魔人を見たことはなかった。だがこの王都には多くはないが普通にあちらこちらに見られる。
北の大陸にいる魔王もいまや一人の国王になっている。わしのいるこの大陸には5つの王国があるのだが隣接する北の大陸にある6つ目の王国といった位置づけだ。
実は転生者はすべて人間種族であるので、人間のいない北の大陸では大量の転生者による近代化が起きなかったのだ。そのためあっという間に国力に差がついてしまい、魔王はもはや脅威ではなくなってしまった。
だが北の大陸から多数の魔族が南方であるこの大陸に流出すればたいへんなことになる。そのため5つの王国は魔王に国家を立ち上げさせ、その支援を行ったのだ。その結果、北の大陸でも一定の食料生産が得られるようになり、人口も安定したのだという。
端的に言えば経済戦争で魔王は敗北し、侵略を思いとどまったということだ。
「よく来てくれたね」
わしが商会に到着すると新入社員担当だという男性課長が迎えてくれた。
35歳ぐらいだろうか。年齢よりも髪の毛がやや減っているようだが、元気で温和な雰囲気だ。
「君には社員寮に住んでもらうことになっていたね。ここにカードを」
端末を差し出す。わしが<リアマジカ>カードをかざすとカードが一瞬光った。
それから1枚の紙を渡してよこす。さすがに魔法でスマホまでは作れていないらしい。わしとしてはある意味で安堵するところでもある。
「これで登録完了。その紙を見れば寮の場所と部屋はわかるから。今日はなにもないからじっくり王都の見物も兼ねて寮へ行ってください。まぁ、これもちょっとしたトレーニングを兼ねてるんですよ。商会ではいろいろなところへ行きますからね。地図を見てたどり着けないでは困るんです。
「明日は朝8:30にまたここへ来てください。食事は寮で食べれます」
わしは礼を言って街へ繰り出した。
王都というだけあってわしの住んでいた田舎とはずいぶんと違う。
単に人や建物が多いだけではない。
まず歩いている種族の多様性だ。前にも話したように魔族まで普通にいる。
次に文化面だ。<竜探索>は世界観としてはオーソドックスな剣と魔法のファンタジー世界だ。これに大量の異世界転移者の影響による現代地球文化がかなり混じっている。服装の多くはユニク○やし○むらの服のようだ。建物もいわゆる建材的なもの多用されている。
一方でモーターやエンジンはこの世界では蓄電池や燃料の供給も含めて運用が難しいらしい。その代わりに魔法を使った蒸気機関……魔法機関と呼ばれている。そのままだ……に似た仕組みが用いられている。走っている車はこの魔法機関によるものだ。
王都中心近くの公園に出るとなにから人が集まっていた。
「デモか」わしはうなった。
ゲームにしろ小説・漫画にしろ、剣と魔法のファンタジー世界でデモが行われているシーンはあまり見ることがないだろう。しかし今、目の前で行われているのは明らかにデモだ。
プラカードを持った人が何から声を上げながら行進している。
「地球文化制限!」
「<竜探索>保護!」
「社会制度破壊を許すな!」
などと書いてある。
話には聞いていたがわしは初めて見た。これは地球の文化で本来のこの世界の文化が失われるという文化破壊・文化侵略を危惧する者たちのデモらしい。
わしもこの世界へ転生してとてもがっかりしたのは事実だ。彼らの意見にも同意するところが多い。だがデモをするのかというと何か違う気がする。
わしは関わらないように公園を離れた。
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