第44話◆俺の仕事を増やす奴は絶対許さないマン
「はいはいはいはいー、ここから先は立ち入り制限区域ですよー。ていうか、今行っても光ってないよ。ドッラ・オ・ランタンは昼間は寝てるから!! それとアイツら怒ると集団で襲いかかってきてフルボッコにされるからな? 夜に遠くから見ておくだけにしとけ。当たり前だが、どこの町もドッラ・オ・ランタンは持ち込めないからな。連れ込もうとするだけで犯罪だ、わかったら帰れ帰れ。お前だって寝てる時に近くで騒がれたらイラッとするだろ?」
「ユーグゥ~、密猟者確保ー! 一人捕まえる毎に報酬に加算とかいいね~、張り切っちゃうよ~! 今日はリゼも手伝ってくれるって~!」
張り切るのはいいけれど、野次馬に来ているだけの奴らはつまみ出す程度でいいぞぉ。
キルキルに連れられたゴーレム系美女のリゼが密猟者らしき男の服の襟を掴み、ズルズルと地面の上を引きずって持って来た。
連れてきたのではないまさに持って来た。あーあ、この密猟者君、完全に意識が飛んでいるな。
「捕まえる時にあんまやり過ぎるなよー」
密猟者なら生きてりゃ問題ないけれど、ただの野次馬だったら少し面倒くさい。まぁ制限区域に踏み込んだほうが悪いのだが。
「大丈夫、立ち入り禁止区域で見つけたら声をかけたら襲いかかってきたのを、リゼがぶん殴って伸びてるだけだよ」
あまり大丈夫ではないが、まぁ概ね大丈夫だな。
エリュオンが拾って来たドッラを無事群れに返した翌日、俺達は早朝から昨夜ドッラを群れに返した場所の付近に来ていた。
町のすぐそばをドッラ・オ・ランタンの群れが通過し、夜の遅い時間ではあったが祭りの後でまだ起きていた者が多く、夜空を渡る幻想的な光の群れを町やその周辺から目撃した者は多かった。
そのため、夜が明けた頃かドッラ・オ・ランタンの光が消えた辺りを見に来る野次馬や、光の正体がドッラ・オ・ランタンだと気付いて捕獲にくる奴らが現れることが予想され、その正確な場所を知っている俺とエリュオンが強制参加で現場の警備に駆り出された。
ついでに、ちょうど今日の仕事がまだ決まっていなかったキルキルも巻き込んだ。
彼ら以外にも数名の冒険者が、ドッラ・オ・ランタンの群れが降りた川辺の周辺を警備している。
ドッラ・オ・ランタンの群れがドッラを迎えに来たのは、日付の変わる頃。日暮れ直後から日付の変わる頃が活動時間であるドッラ・オ・ランタンが休息を始める頃だ。
ドッラを迎えに来た群れは、今夜はこのままこの川辺で休んで、明日の夜に旅立って行くと予想された。
え? 旅立って行くよね? ここに住み着いたりしないよね?
町の下流より水は綺麗だが、けっして清流というほど水の綺麗な場所ではなき、ハグレ・オ・ランタンがいたことだけでもビックリな場所なのだ。
ドッラ・オ・ランタンが町の近くに住み着くと、密猟防止のために見回りを配置しないといけなくなるので、ギルドの売り上げにはなるかもしれないけれど人の確保で苦労しそうなので、できれば住み処にお帰りいただきたい。
それに、うっかり怒らせると怒濤の轢き殺しアタックをしてくるような、魔物が町のすぐ近くに住み着くのはまずい。もしかすると、領主から掃討命令がでるかもしれない。
可愛いドッラのためにも住み処に帰ってほしい。ドッラにもう会えないは少し寂しい気がするけれど、人のいない静かのとこで平和に暮らしてほしい。
空が明るくなり始めた頃に昨日の場所に近付き遠くから確認すると、ドッラ・オ・ランタンの群れはやはりそこで休んでいた。
そーだよ、一回家に帰って少し寝て夜明け前から出勤して現場に来たんだよ!!
おかしいな、今日はとくに何もなかったら休めるはずだったのに。何かあったよなー、ドッラ・オ・ランタン。
ちなみにエリュオンは帰宅が遅かったことを配慮して、ゆっくり現場に合流ということになり俺より遅れての現場到着だった。
俺にも配慮してほしかったな!!
冒険者には優しいが職員には時々厳しい冒険者ギルドの体制である。
町の近くとはいえ、町の外には魔物がおり、夜は視界が悪く魔物の動きも活発になるため、野次馬が来るとしたら夜が明けてからだ。
冒険者なら夜でも活動する者は多いが、冒険者ならドッラ・オ・ランタンの群れなんかに手は出さない。
そして密猟者。密猟者もドッラ・オ・ランタンを狙うなら昼間だろう。
夜は他の魔物が活発なのもあるが、ドッラ・オ・ランタンは昼間は眠っており、そこにさらに睡眠効果のある魔法や道具を使えば、気付かれることなくドッラ・オ・ランタンを捕獲することができる。
というわけで、夜明け前からドッラ・オ・ランタンの群れの近くで野次馬と密猟者を警戒する仕事をしている。
あー、ねみ。
今ならこのまま地面に転がってもすぐ寝られる気がする。
で、予想通り夜明けと共に暇な野次馬やら、本物の密猟者とまでいかなくても物珍しさからドッラ・オ・ランタンを捕まえようとする無知な奴、そして正真正銘の密猟者まで、ちょいちょい姿を見るようになった。
町の近くだからって、ここ一応魔物がでるからな? ドッラ・オ・ランタンは普通にCの上からBの魔物だからな? 熟練の冒険者なら単体相手はどうにでもなる部類だが、その辺のチンピラが勝てるような相手じゃないからな?
なんなら肉食だから、捕まえようとしたら逆に捕まって頭からバリバリいかれるよ?
こんな町の近くで虫に食い荒らされた人間の変死体とか勘弁してほしいから、さっさと帰れ。
それにドッラ・オ・ランタン以外にも普通に肉食の魔物がいるからな?
ほぉら、あそこの水の中にいる巨大タガメ、アイツは肉食だし素速いしランクも高いぞぉ? 水の中から鎌のような足がヒュッと伸びて来て捕まったらもう助からないと思ったほうがいいぞぉ?
うむ、ランクの高い冒険者がサクサク倒して素材にして売られている魔物も、一般的にはやべー魔物だらけだからな? 命が惜しかったら帰れ帰れ!
「ギャアアアアアアアアアッ!! 助けてくれええええええ!!!」
うろうろしている野次馬を追い払いながら、キルキルが持って来た本物の密猟者を縛り上げていると、立ち入り禁止にしている区域の方から野太い悲鳴が聞こえてきた。
やめろ、騒ぐな。ドッラが起きる。
家族の下に帰って、やっと安心して眠れているはずなのだ、そんな汚い悲鳴でドッラが起きたらどうするんだ。
「た、助けてくれ! アンタ達冒険者だろ!? この先に巨大な狼がいて襲いかかってきたんだ!」
この先は立ち入り禁止区域でとりあえずロープが張ってあって、立ち入り禁止の札も付けてあるよな?
立ち入り禁止区域の方から複数の男達が息を切らしながらこちらに走って来るのが見えた。
あっちの方は確かエリュオンが見回りを担当している辺りだな。
「この先は立ち入り禁止区域だよなぁ? 何でそこから逃げて来たんだぁ? わっかりやすくロープも張ってあるし札もたくさん張ってあるよなぁ? わかるかー? そのロープを張ったのは俺なんだよなぁー。午前様で帰宅した後ちょっとだけ寝て、夜明け前から立ち入り禁止のロープを張って、札まで取り付けてなー。あ"ぁ"、めちゃくちゃ眠かったし、現在進行系でめちゃくちゃ眠いが? 俺の朝からの苦労を無視して中に入った奴がいるのかー? あと、そのでかい狼はラウルス名物の飼い主以外にはちょっと感じの悪いワンコロだ。ラウルスの住人ならだいたい知ってるんだが、知らないなら祭りでたまたま来てた奴かー? まぁいいや、ワンコロは顔が怖いだけだから問題ない。それで、立ち入り禁止区域に何で入り込んだか、ちょっとお兄さんとお話ししようか」
今日の俺は寝不足でちょっと機嫌が悪い――俺の仕事を増やす奴は絶対許さないマンだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます