第42話◆一匹蛍
「うおおおおおおおおおおお!!」
落ちたーーーー!! はい、落ちたーーーーーー!!
助けて、エリュオン!!
鳥の羽根って水をはじくためなのか、意外とトゥルットゥルッしてるよね!?
って、ワールウインドがでかすぎて小回りが利かないのでは? あの大きさで背中に人やら犬やら鶏やら竜やら乗せているから、急な方向転換からの急降下は危険そうだ。
そして地表に近付くと木がたくさん生えていて、大きいままのワールウインドでは地面近くまで下りるのは困難だ。つまり、木の高さまで俺が落ちるまでに拾ってもらえないと、そのまま地面まで一直線である。
あ、これやばい奴では?
何も見えない暗闇の中、本当に落ちているのかすらわからなくなる。
ただ闇に囲まれているように錯覚する漆黒の中、高速で体を撫でていく夜の空気の感覚だけが、俺の体が落下し続けていることを教えてくれる。
これだけ真っ暗だと、エリュオンは落下している俺の位置がわからないのでは?
ますますやばい気がする。
影渡りの魔法で影から影へ移動しようにも空中のため、触れられる場所に影ない。
やばい、詰んでる。
エリュオンがなんとかしてくれると信じて祈るしかない!?
地面が近付いて来たら、光るものを出して影を作ってどうにか影渡りをする? いやどこかに影が落ちれば影縛りで影を固定すれば落下を止めることもできる。
落下しながらネクタイを留めているピン――小型照明用魔道具を起動しようとした時、暗闇の中をスーッと細く薄い光の帯がこちらに向かって近付いて来た。
「ギーーーッ!!」
「ドッラ!?」
光の主――ドッラが薄い羽を光らせながら俺の方へと飛んで来て、落下する俺の体を六本の足でガシッと掴んだ。
ありがとう! ドッラ!! めっちゃ助かった!! この恩はアントロデムスの竜揚げで返すぞ!!
「ギッ……ギギギギ……」
ドッラは俺が落ちたのを見てすぐに助けに来てくれたと思われるが俺の体はドッラよりも大きく、まだ成体になって間もなく体の小さいドッラでは俺の体を抱えて飛ぶのは難しいようで、落下速度は緩やかになったものの止まることはなかった。
このままでは落下の空気抵抗でドッラが翅と痛めてしまうかもしれない。
「ドッラ、放していいぞ。少し地面までの時間が稼げた後は魔法で頑張る」
落下しながら照明用魔道具で作った影を縫い止めるのは難しそうだが、やってできないことではない。
俺はやればできる男! やってやるぞ!! というか、エリュオン!! 助けてくれてもいいのよ!!
「ギギギギギ……」
ドッラは俺を心配して迷っているのか、俺を放そうとせずそのまま一緒に緩やかに高度を下げている。
もう少し、下がれば近くの木に俺の影が落ちる。そうすれば影縫いで一時的に落下を止めることができる。
そう思い周囲を見回すと、暗い地上、木々の見えない場所から突然薄い光が現れてこちらに向かって来た。
薄い光だがドッラよりもずっと大きな光。
ふよふよと少しゆっくりとした速度でこちらに向かって来る。
もしかして小鳥達が見たいう光か? ウィル・オー・ウィスプにしてはでかいぞ?
「ギチギチギチギチギチギチギチ」
ドッドッドッド……ドッラ・オ・ランタンだああああああああ!!
もしかして、仲間意識の強いドッラ・オ・ランタンさん、幼いドッラのピンチに駆けつけてくれた?
なんでこんなところにドッラ・オ・ランタンがっ! はぐれドッラ・オ・ランタンかな?
どこにでもいるよね、一匹狼気質だけれど案外気さくなおっちゃん。いや、おっちゃんかどうかは知らないけど。
一匹狼ならぬ、一匹蛍のオッサン・オ・ランタンかな?
「ギチ……」
なんか睨まれたようなきがする。
や、ドッラ君を危ない目に遭わせてすみません! や、心優しいドッラ君が、ルフの上から落っこちたどんくさい俺を助けてくれたのです!!
ええ、俺は自分で頑張りますので、ドッラ君を助けてあげて下さい!!
できれば、お怒りにならないで頂けるとありがたいかな!?
仲間を呼んで、怒濤のドッラ・オ・ランタンラッシュとか勘弁して下さい!!
明日必ず、仕事の合間に詫び竜揚げを持って来ますので!!
俺の方へ向かって来ている光の正体は、二メートルを超える大きさのドッラ・オ・ランタン。一メートルに満たないドッラに比べ、大型でガッチリとした立派な大人の個体である。
うっわ……、すっごい牙。
「ギギギギギギギギ……」
「ギチギチギチギチギチギチ」
ドッラとオッサン・オ・ランタンが、距離を詰めながら何やら会話をしているように聞こえた。
そしてすぐにオッサン・オ・ランタンとの距離が縮まり、その鋭い牙がギチギチといっている顔が目の前まで来た。
うわぁ、これ、さすがにやばいから追い払ったほうがいいか?
と思い腰の小型魔砲に手をかけようとしたのだが、オジサン・オ・ランタンは俺の横を通り過ぎ、俺の背中側から俺を抱えるドッラごとガッシリと掴んだ。
牙だけではなく爪もすごいのね。
ドッラ・オ・ランタンは集団ではないとたいしたことないとか思っていてすみません。さすが亜竜、とても立派な爪と牙をお持ちで。
そして大人のドッラ・オ・ランタンが俺達を抱えてくれたことで落下は止まり、そのままフワフワした浮遊感の中、ゆっくりと地上へと降りていった。
どうやら、オッサン・オ・ランタンが俺達を助けてくれたようだ。
上空を見上げると、エリュオンが放ったと思われる風の精霊がこちらに向かって来ていたが、オッサン・オ・ランタンが現れたことに気付いて、エリュオンが待てをさせたのか、俺達の少し上でこちらを窺うようにフワフワと宙を漂っていた。
エリュオンの放った精霊も間に合っていたかもしれないが、オジサン・オ・ランタンの出現で余裕をもって助かった。
あまり地面が近付きすぎて恐い思いをせずにすんだ。
オジサンありがとう、すごく助かったぞ!!
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