第38話◆どこでも報告書
「あー、ユーグの膝の上で寝ちまったなぁ」
「これ、俺が動けないのだが?」
「動いて起こすのは可哀想だからしばらくそのままだな」
おい、エリュオン! 可哀想なのは暗くなっても帰れない俺だ!!
テロスも詰め所の机の上に首を置きっぱなしにして和んでんじゃねぇ!!
ほら! 机の上で生首が喋っているわ、詰め所に首なしの騎士はいるわで、荷物検査で連れて来られた見知らぬ旅人が、泡吹いて倒れたじゃないか!!
驚かすのは悪い奴らだけにしておけ!!
って、それよりこれ! これどうするんだよ!!
詰め所で椅子に座ってドッラ・オ・ランタン君にアントロデムスの竜揚げをあげながらエリュオンの話を聞いているうちに、ドッラが俺の膝の上で寝ちまって身動きがとれなくなってしまった。
身動きがとれない、つまりお家に帰れない!!
外はすっかり暗くなり、俺の退勤時間はとっくに過ぎ去っていた。
「じゃあ、俺これから治安部に報告に行かないといけないから、ドッラはユーグに任せるよ。一応ワールウインドを置いて行くから、もしドッラ・オ・ランタンの親が迎えに来ても時間を稼いでくれるから安心してくれ」
いやいやいやいや安心できねーつか、やっぱドッラ君の親御さんがお迎えに来ますよねぇええええ!?
って、これを預かったら俺が帰れない!! しかもこの時間は魔物の審査ができる部署の受け付けも終わってる!!
さすがにこいつは俺の権限だけでは町に連れ込めない。警戒音を出していないから大丈夫? いや、ダメだな!?
「ユーグ、安心しろ。詰め所には仮眠室があるぞ」
テロスが俺の肩にポンッと手を置いた。首は机の上で微笑んでいる。
その励まし方は嬉しくない上に、見慣れていても怖いからやめろ。
くそぉ、ドッラが寝ているから動けねーし、どのみちこの怪しい荷馬車のこともあるから、ギルドに連絡をしながら報告書を作らないとな。
マジックバッグから紙とペンを取り出し、ドッラを膝に乗せたまま報告書の作成にとりかかる。冒険者ギルド職員たる者、報告書の用紙くらい持ち歩いているのだ。
ついでに馬車の持ち主の話も聞きながら、報告書に纏めておくか。
「ああ、やっぱ審査番号に該当がない? ああ、馬車の持ち主の取り調べが終わったら、積み荷の魔物をしばらく預かる流れになると思うので、獣舎の担当に伝えておいてくれ。ん? ドッラ・オ・ランタン? ああ、わかってるアレは町に持ち込めないからとりあえずドッラの活動が活発な時間帯はここで待機しておいて、親や仲間が迎えに来たら返そうと思ってる。エリュオン曰く、落ち着いて警戒音も出さなくなって、リラックスしてるから穏便に返せるんじゃないかって。ああ、今は大人しく寝てるな。エリュオンがそのうち報告に行くと思うから、詳しいことはその時に直接聞いてくれ」
冒険者ギルドに現状報告を終え、伝話を切った。
報告ついでに商人が提示した魔物の鑑定書に書かれている、審査番号を冒険者ギルドで調べてもらった。
審査書に記入されている番号はただの通し番号ではなく、審査した国、機関、支店、日時が割り振られており、暗号のようになっている。
その見方を知っていればどこの役所のどこの支店がいつ審査したかわかるようになっている。
これを適当な番号を書いて書類を偽造すれば、国、機関、支店で該当するものがなかったり、書類に記載されている内容不一致だったりする。
仮に一致したとしても調べればすぐにわかることである。時々、職員が結託していて拗れることもあるけれど。
今回の書類は番号の時点でアウト! 審査番号に該当する機関がなし!!
どんなにすっとぼけても無駄! 君達、魔物に襲われる前はラウルスから出発したのだよね?
持ち込み制限の魔物を偽造書類でラウルスに持ち込んでいたってことだよね? はい、アウトーーー!!
なんでギルド職員がこんなとこいるかって? うるせぇ! 仕事だよ仕事!! 勘のいいテイマーが俺を巻き込んだんだよ!!
え? 持ち込んだのは違う商人? 自分達は町を出る時にこれを別の町にいる商人の仲間のとこに運ぶように頼まれた運び屋?
中身については詳しく聞いていない? 頼まれただけ?
わかった、そこら辺の詳しいことは治安部の担当だな。
うん、本当にもし何も知らないならちょっと罰金払って終わりだな。
わかっているだろ? 運び屋なら知っているだろ? 稀少な魔物の運搬にはリスクがあるって。
というか真っ当な運び屋なら、稀少な魔物の運搬を頼まれた時点で商業ギルドか冒険者ギルドか畜産ギルドあたりで証明書の確認するよなぁ?
ん? 忘れた? お前、リスク管理って言葉を知っているか?
あ、そうそう、じゃあその依頼主って奴はどこいんの?
変に隠してもすぐバレるんじゃないかな?
俺も忙しいんだよね。報告書を纏めないといけないし。そのために治安部が君達を引き取りに来る前に、簡単な事情だけでも聞きたいんだよね。
あそこで暇そうにしているデュラハンと変わろっかなー。胴体は仕事してるみたいだから、頭だけだけれど。
その間に報告書を書こうかなー。
馬車の持ち主は責任を持ってドッラ・オ・ランタンの親のところに謝りに行くそうですって。
ああ、ドッラ・オ・ランタンって親子どころか仲間の絆が強くて、子供に対する愛情がすごく深いからな。
ん? これは成体じゃないかって?
うん、幼体から成体にはなっているが、成体になったばかりのまだ幼い個体だな。
こいつは少し大きい犬くらいのサイズだが、大人になると雄で二メートルから三メートルかな?
一匹一匹はCの上からBの下くらいの強さだけれど、こいつら何十何百で固まって生活している奴らだから、子供を攫われたらそれが一致団結して取り返しにくるんだよ。
わかるか? 魔物っていうのは小さくて大人しく見えても魔物なんだ。
檻に入れている、拘束をしているからと言って安全というわけではないんだよ。
お前らの馬車がなんで魔物に襲われたか知っているか? こいつだよこいつ!
ドッラは子供でも虫系の生き物を使役する能力があるんだよ。
小さくても虫の群れを呼び寄せる、成長すればその能力はさらに。
そんな奴が群れで子供を取り返しにきたらどうなると思う?
虫に見えるかもしれないが、こいつらは亜竜だ。
そう、ドラゴン! ドラゴンの仲間なんだよ!!
うむ、そうだ。そんなのが大群で町に突っ込んで来たらどれだけの被害が出るか想像するんだな。
お前、その責任を取れんのか?
それから、もしそのままこいつを運んでその途中で仲間が取り返しに来たらどうなっていたか、もうわかるよな?
うむ、それでお前にこれの運搬を依頼した奴は?
ん? 現在別件で治安に拘束されている魔物取り引き業者?
ちょっと……それ嫌な予感がするんだけど。
そいつ、コカシャモとか取り扱ってた?
あ? 正解?
うん、わかった。素直に話してくれた分考慮するように治安には伝えておくよ。伝えるだけだけど。
その依頼主は罰金と処罰さらにドンかな!?
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