第36話◆何でも拾ってくる男
ギルドを出る間際に知らされた商店のトラブルは、祭りで浮かれた酔っ払いを冒険者君が排除しようとして起こったトラブルだったので冒険者君無罪!! 商店側も怒っていない!! むしろ感謝されている!!
酔っ払いを追い払おうとして、そのままノックアウトしてしまったというか勝手に倒れてしまったので、冒険者君がやりすぎたのではないか疑惑をかけられたのだ。
冒険者君は悪くない! 朝から酔っ払っている酔っ払いが悪い!! 以上!!
くそぉ、朝から酔っ払えるとかいい身分だな!? うーん、やっぱ酔っ払い有罪!!
まぁ、一応報告書だけは書いておかないといけないので、冒険者君に事情を聞いて商店を離脱。
酔っ払い側の事情も聞かないといけないので、それは後で治安部に行った時に纏めて聞く。
あ"? 商業ギルド? 自分とこで捌ききれない仕事をクソみたいに押しつけまくった上に、新たに仕事を増やしやがって、ギルティ! 有罪! キエエエエエエ!!
すみません? ごめんなさい? あ"ぁ"? ごめんなさいって俺はお前の友達か!? 謝る時は「申し訳ございませんでした」だろ? それと「すみません」は謝罪の言葉ではない。仮にも商業ギルドの職員ならそれくらい覚えておけ!
うむ、まぁとりあえず謝罪より今回の件、なんであんなあからさまにペット基準を超えているコカシャモにペットとしての販売許可が下りた?
魔物販売時の鑑定は、魔物の種類によって畜産ギルドか冒険者ギルドに鑑定依頼出しているはずだよな?
あ"ぁ"? 詳細は調査が終わり次第連絡しますだぁ? 終わり次第っていつだいつ!?
まずは期限を決めろ。 あ"? てめぇが決められないなら俺が決めるぞ!? 俺が決めると明日になるぞ? いいのか?
ん? 一週間? あの商人の過去の履歴と活動報告くらい、ギルドの情報共有端末で確認できるだろ!? ペットの鑑定しているならその履歴くらい残っているだろ? ちなみにうちの冒険者ギルドにはここ一ヶ月以上コカシャモの鑑定依頼はなかったぞ。
他の町で鑑定してんなら、その時にその町の商業ギルドで手続きした履歴あるだろ? 商売もしているなら、その時に取扱商品の情報くらい入力しているよなぁ?
やー、まさか忙しくて詳細省いて入力していましたとか、商品の審査記録を紛失しましたとかないよなぁ?
だよなー? 登録情報の入力は速やかに! 事務処理はその場で終わらせる!! 後回し、人任せ、絶対ダメ!!!
うんうん、わかったら三日後な。明日はまだ祭りやっているから勘弁してやる。祭り終わって一日あれば余裕だよなぁ!?
あー、待ってやる俺、すごくやっさしー。
じゃ、そういうことであとよろしく!!
あー、クレーム入れる側、超楽しっ!
それから治安部。
少年の聴取は順調のようだが、商人どもは証拠が揃っていないため、のらりくらりとすっとぼけているようだ。
悪徳商人どもが彼の村でやらかしたことは、現地に調査に行っているエリュオンが帰ってくれば進展があるだろう。
後日改めて治安部の者が裏付けに行くと思われるのでそれが終われば、器物破損やらコカシャモの窃盗と不法販売で商人達を罰することができるだろう。
そしてペット用のコカシャモ販売の件。これは全面的に商業ギルドの怠慢が悪い!!
あ、はい、コカシャモの件の詳細は商人の方は商業ギルドからの報告待ちですねぇ。
コカシャモはやっぱペットの販売基準を超えていましたよね~? ええ、ギルドで預かっているのも、ほぼほぼダメなやつですね。
なんでそんなのが審査を通ったかは、商業ギルドに調べてもらっています。
とりあえず一週間くらいかかるのではないですかね? はやくて五日? 一応こちらからも催促しておきますよ、はははは。
……どうせ奴らのことだから三日で戻してくるわけないし。
例の村には飛行ペットの使えるテイマーを行かせていますので、今夜には戻って来るかと。ええ、エリュオンですね。
え? 治安部の捜査犬の調教を近いうちにエリュオンにお願いしたい? ああ、いつもの奴ですね? 犬種はノーマルケルベロスで良かったですかね。
了解です、都合の良い日をいくつか決めて、ハトで飛ばしておいてください。いつもありがとうございます。
え? ああ、今朝の酔っ払いと冒険者の件。ええ、あの店、ちょうど僕の担当なんですよねぇ~、ははははは~。
ええ、対応時の事故で処理ですね。まぁ、酔っ払い相手ですしねぇ、そうそう、朝から酔っ払って仕事増やすなっつーの。
ではそちらの方はよしなにお願いします。
で、冒険者ギルドに戻って来たらすっかり昼を過ぎていた。事情聴取の終わった少年君とチャーハン君も一緒だ。
少し時間がかかってしまった気がするのは、色々ごねまくった商業ギルドが悪いことにしておこう。
捜査に協力してくれて、クソ商人の悪事を暴く切っ掛けを作ってくれた少年君には、冒険者ギルド食堂のアントロデムスの竜揚げ定食をご馳走しよう。
む? チャーハン君も竜揚げを食うのか? へぇ、コカシャモって肉も食うんだ。そっか、コカトリスの血統だもんな。
よしよし君達のおかげでゆっくり昼飯が食えるから、お礼に持ち帰り用の竜揚げも奢ってやろう。今夜もギルドに泊まることになるし、夜にでも食べたまえ。冷めても美味しいアントロデムスの竜揚げ!!
おっと、自分のも買っておこうかな? 休憩中に摘まむ用? 帰ってから食べてもいいし。
ん? 後輩君? おっと、ギルドに戻って来たらもう昼休憩は終わった後だったのかー、いやー残念残念、アントロデムスの竜揚げ定食はまたの機会にだな!
あ、事務処理を代わりにやってくれてありがとう!
昼すぎに冒険者ギルドに帰って来て、少年君と一緒にのんびり昼ご飯を食べてそれからは通常業務。
いやー、子供と一緒にいるとみんな気を遣って仕事を回して来ないから平和だなー。君、もう少しギルドでゆっくりしていていいよ。
午後は依頼から戻って来た冒険者達の報酬の支払いや、翌日の依頼の人集めや確認。
あ? 素材の買い取りは受付ではなくて売店な? 二メートルを超えるものや、百キロを超えるものは解体場で買い取りだ。
うむ、そのまま買い取りに出すより解体してからの方が高く買い取るぞ。手間も金になるからな。
解体場は一定時間、一定サイズまでは無料で利用できるから、詳しくは解体場へ行って聞け。
ああ、売店横の通路から中庭に出て、正面に見える大きな倉庫のような場所だ。
解体用の道具のレンタルもあるし、大きすぎるものは手数料はかかるが専門の職員が解体してくれるぞ。
薬草の買い取り? それも売店だ。つか買い取り関係は全部売店な。珍しい素材とかよくわからない魔道具とか鑑定の必要なものは、売店の中に鑑定所があるからそこだ。
わからなかったら、そのまま売店のカウンターに持っていけば、そこで鑑定できないものは鑑定所に案内されるから、とりあえず売店のカウンターへ行け。
うむ、そこは俺の担当じゃないから、ごちゃまぜだろうがなんだろうが知ったこっちゃない。
朝はバタバタしていたが、その後はいつもより少し忙しいくらいで概ね平和に過ぎていった。
そして夕方になり少しずつ日の光が弱まる頃、少年の村に調査に行っていたエリュオンがそろそろ戻って来てもおかしくない時間なのだが、俺が予想していた時間を過ぎても戻って来ない。
少し遠い場所だし、村での聞き取り調査の進行次第で多少時間は遅くなるのもおかしくないか。
ただ予想よりかかり時間が過ぎているので、何か事故やトラブルに巻き込まれていないか不安である。
ペットは恐ろしく強いけれど、エリュオン本人はひょろひょろモヤシ君だからなー。
チリンチリンチリンチリンチリンチリンッ!
俺の前の伝話が鳴った。
「はい、冒険者ギルド、ラウルス支部、ユーグラ……ああ、エリュオンか。どうした、時間がかかってるようだが何かあったか? ん? とりあえず町の正門まで来てくれ? 何かあったのか?」
エリュオンは町の正門までは戻って来ているようだ。
しかし、俺に正門まで来いというのは何かトラブルでもあったのだろうか?
「ん? は? ドッラ・オ・ランタンの子供を保護した!? おいいいいいいい!! なんだってそんなもん!?」
ドッラ・オ・ランタンとは蛍竜とも呼ばれる、羽のある昆虫――甲虫のような姿をした亜竜である。
夜になると半透明の翼がほんのりと光ることが、その名前の由来だ。
大きさは成体でも一メートルから三メートルと竜にしては小振りで、ランクはCからB-と単体なら熟練の冒険者なら苦労せず倒せる相手だ。
竜種にしてはあまり強くないのだが、コイツのヤバイところは群で行動し親子や仲間同士の絆が非常に強いことだ。
知能はそこそこ高く基本的に温厚なのだが、家族や仲間が傷つけられると激怒し、それは群全体に広がり数の暴力を武器に襲いかかって来る。
おい! エリュオン! なんだってそんなやつの子供を拾って来た!? いや、保護した!?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます