第33話◆君、うちで働かない?
少年の話によると、少年の住む村は農業と畜産業の盛んな村で家畜の販売も行っているそうだ。
家畜の護衛にコカシャモを飼育しており、そのコカシャモの繁殖して増えた分は販売対象らしい。
といってもコカシャモは鶏ほどの繁殖力はなく、あまり増えないのでほとんどが家畜の護衛用に調教され村で使われているそうだ。
で、トラブルがあったのがその取り引き。
村にやって来た行商が持ちかけたのはコカシャモの取り引き。しかし売ることのできるコカシャモの数は、村全体でも商人が希望する数よりもずっと少なかった。
商人は一匹でも多くコカシャモを買い取りたいと交渉は長引いたようだが、追加でコカシャモを売る者はほとんどなく、その時は販売可能な数だけ取り引きをして商人は帰っていったそうだ。
少年の家もその商人にコカシャモを売った家の一つだった。
そうやって村の複数の農家がコカシャモを商人に売った夜、村に相次いで家畜小屋――主に鶏小屋が壊され、飼育されていた鶏やコカシャモが逃げ出して大騒ぎとなった。
朝には騒ぎが収まり逃げ出した家畜を回収したが、結局見つからない家畜も多く、そのほとんどがコカシャモだった。
山間の小さな村のため、家畜小屋が山に棲む肉食獣に荒らされることは珍しくない。
小屋が魔物や獣に襲われて戻って来ないのなら絶望的だろうと、諦める者が多かった。
一番被害が大きかったのは少年の家で、その状況に疑問を持った少年は夜が明けると村の周囲を一人で捜索に向かったらしい。
そして少年はそこで違和感に気付いた。
村の周囲を探しても羽毛は時々落ちているもののコカシャモの死体は見つからない。獣のや魔物の襲われたのならどこかにその食い残しがあるはずだ。
だから、少年はそこにいた者に尋ねた。
『ねぇ、村のコカシャモ達を見なかった?』
尋ねられた者は答えた。
『夜は暗くて何も見えなかったけど、人間は山の中を歩いてて鶏が騒いでるのは聞こえたよ。強い子が弱い子を村の方に帰してるみたいだったけど、やって来た人間が強い子を連れて行ったみたい』
『ありがとう』
少年は木の上の巣から顔を出した鳥に礼を言った。
多くの鶏とコカシャモを飼育する農家に生まれ、鶏に囲まれて育った少年は物心ついた頃には鶏系の生き物と普通に会話をしており、成長するにつれ小型の鳥で友好的なものとは会話ができるようになっていたらしい。
え? 君、すごくない? それテイマーの素質あるよ? この書類に記入して冒険者になってよ?
いや、鳥と会話できるほどの能力なら磨けば諜報員にもなるな。
ああ、いやいやいやいや、今はそんなことよりコカシャモの件だ。
最初は夜に逃げ出した鶏が、小屋の扉がいきなり壊れて石が投げ込まれて、逃げ出したと言っていたことが切っ掛けだった。
確かに小屋の中には泥や石が散乱していて、一見肉食の魔物や獣が入り込んだように見えた。
だか、小屋に敷き詰められている藁の踏み潰された型が獣に踏まれたというより、もっと面積の大きいものに踏まれたような潰れ方だった。
小屋の周辺は激しく踏み荒らされており、足跡が判別できる状態ではなかった。
獣や魔物が侵入しただけではここまで踏み荒らされない。意図して足跡を消したような踏み荒らされ方。
そして小屋にいた鶏達は魔物がいると思い込みパニックを起こし、壊れた扉から逃げたが魔物の姿を見たものはいないようだった。
鶏達は逃げた先で迎えにきたコカシャモ達にうながされて村周辺に戻ってウロウロしていたところを、保護されて小屋に戻された。
鶏より強いコカシャモは、護衛以外にも鶏を纏めるリーダーの役割もしており、逃げた鶏達はコカシャモ達によって村へと誘導されたようだ。
しかし、朝になってみると逃げた鶏を連れ戻しに向かったコカシャモ達の半数以上が戻って来ていなかった。
鶏達の話を聞いた少年は大人にその話をしたが、昼間は大人達は仕事があるため少年がコカシャモを探しに行って、その行方を山の小鳥達に聞いたそうだ。
動物や魔物と意思疎通ができる者は時々いるが、特定の者としか言葉を交わせない魔物や動物から得た証言は、現行の法律では証拠として扱うのは難しい。
そして飼育下から逃げ出した魔物は、野生の魔物として討伐もしくは捕獲しても罪に問うことは難しい。
村の大人達もそれをわかっていたのだろうか。疑わしさはあったが、商人達が村を離れて時間が経っていて追いかけるのも難しそうなこともあり、もしまた村に来た時は取り引きをしないだけだと、商人の行方を捜そうとはしなかった。
コカシャモを数匹失ったが、魔物や獣の被害に遭ったものだとしてまた増やせばいいと諦め顔だった。
こういった、盗人まがいの商人の被害は町から遠い山間部の村で時々おこる。
現金収入の少ない山奥の村では外部からやって来る行商人は、貴重な取り引き相手であり現金の収入先であって無下にはできない。
その中に悪質な商人が混ざっていて被害にあったとしても、町が遠く公的機関に被害を申し出る頃には、行商人達はすでにどこかに移動してしまっている。
それがわかっていて、町から遠い村で村人達がこの程度ならと諦めるラインを見極めて悪さをする質の悪い商人もおり、そういう状況なので被害者からの訴えも少なく発覚しづらい。
今回もまさにそのケースだ。
しかも祭り中は外部から商人の出入りも多く審査や警備もあまくなりがちだ。
魔物系ペットの類に限らず、通常の商品とは別に商品以外の目的として持ち込んで、不正な取引を行う商人は毎回いる。
この騒動で行方がわからなくなったコカシャモの中には、この少年が調教し非常に可愛がっていたコカシャモ――チャーハンがいた。
チャーハンは、家畜を守るコカシャモのリーダー的存在だった。
いなくなったチャーハンのことを諦めきれず、少年は一人で村を飛び出して、付近にいる小鳥から情報を得ながら商人を追って、ついにラウルスで追いついたらしい。
道中、小鳥達を使って魔物から回避したり、木の実を分けてもらって腹を満たしたりしていた? 道中の野宿も木の上で寝ていた? あの小賢し……賢いコカシャモも君が調教したんだよね?
え? すごくない? 子供一人で鳥から情報収集しつつサバイバル状態でここまで?
チャーハンくんは他のコカシャモを統率したり、人間の裏を掻いたりと捕獲時は手間をかけられたが、あれをこの子供が教え込んだとなるとテイマーとして末恐ろしい。
やっぱ君、冒険者ギルドで働こう。
嫌? コカシャモと鶏が好き? そうか残念だな。
少年は、そんな感じでここまで来たが、町に入るための通行税の持ち合わせがなく、入り口で足止めされていたらしい。
コカシャモが脱走してからの顛末、少年の証言を報告書に纏め終わる頃には空が少し明るくなっていた、
俺、今日は日勤だから朝から仕事なんだよな。お家に帰らず仮眠室コースだな。
コカシャモの業者の件は、チャーハンの捕獲時の顛末を理由に一般販売用コカシャモ基準の再調査で販売は止められるな。
これは商業ギルドの管轄だから夜が明けたら商業ギルドへ。
少年の村で商人がやらかしたことの裏付けは治安部だが、場所が場所だからこっちに依頼を回してきそうだなぁ。
コカシャモの窃盗で引っ張るのは難しいが、鶏小屋を壊したのならそちらで引っ張れるだろう。
器物破損とペット販売法違反かなぁ? この様子だとつつけば余罪が出てくるかもしれない。そこは治安部の仕事だから俺は知らない。
まぁ少年の村の件は治安部から依頼が来ると踏んで、明日の依頼の配置少し弄ってエリュオンが行けるようにしておくか。
エリュオンならワールウインドに乗ってひとっ飛びだしな。
最悪テロスでもいいや。
どうせ妖精だし寝なくても大丈夫。デュラハンは昼間は弱体化すると行っていたがそれでもAランク基準を満たしている。というか夜が強すぎ。
あの首なしで馬でなら子供を乗せて走っても、普通の馬より全然速い。足も速いが、休憩なしで常に全速力の馬はマジでやばい。
そんなことを考えているうちにぽっくりと眠っていた。
ベッドは少年とチャーハンが寝ているので、俺はソファーの上で。
昨夜は仕方なかったけれど、今日は仕事が終わったらお家に帰って寝るんだ。
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