第28話◆おうちは目の前なのに帰れない
捕獲したコカシャモの数が多かったので、祭りの本部がある広場に捕まえたコカシャモを預けに戻ってから、行方を眩ました尻尾の長いコカシャモをエリュオンと共に探しに向かった。
少し時間が空いてしまった為、先ほどの場所から離れた場所まで移動している可能性が高い。
「あんのクソ鳥、どこ行きやがった? エリュオン何とかなるか?」
祭りが終わり人がまばらになった町の中を、逃げたコカシャモの痕跡を探してウロウロとしながら、エリュオンに尋ねた。
用心深く周囲を観察しているが、痕跡はさっぱり残っていない。これはもう、人間の感覚だけでは無理じゃないかな?
助けてスーパーテイマー様!!
「んー、ワールウインドが近くの鳥に聞いてくれてるが、鳥は夜だから寝てる奴ばっかで時間がかかりそうだな。ワールウインドも眠そうだし帰りたくなって来た」
え? やだ、俺一人残して行かないで!!
エリュオンが使役しているワールウインドという名の鳥の魔物は、普段は愛らしい小鳥のような姿でエリュオンの肩や頭にとまっているが、その正体は猛禽類の魔物、ルフというSランクの魔物である。
その大きさは自在に変化する事ができ、最大で百メートルを超えると聞いている。
エリュオンが子供の頃に、まだ雛だったワールウインドをルフだと知らず育てて、すごい勢いで大きく成長して驚いたとかなんとか。
そこで驚いた程度で済ますのが、動物好きのエリュオンらしいというかなんというか。
エリュオン曰く、このワールウインドがきっかけでテイマー兼ヒーラーになったという。
で、そのSランクの怪鳥ワールウインド君、鳥の上位存在の為、その気になれば自分より格下の鳥に命令する事もできる。
もちろん従わない奴もいるが、弱いものや、穏やかな性格のものならだいたい従うと聞いている。
どう考えても、その強さで脅しているのだろうが、今回はそのワールウインド君の力に頼って、近場にいる鳥から、クソニワトリの情報を集めてもらっている。
あのクソニワトリも従わないタイプの鳥だったようで、仲間を盾にして姿を眩ましてしまい、それから手がかりがない。
ニワトリのくせにとんでもない奴だな!!
「アスににおいを辿らせてるけど、あのニワトリ、浄化魔法でにおいの痕跡を消して逃げてるな」
マジ、ニワトリのくせに無駄に知能高すぎ。
エリュオンが連れているもう一匹の魔物、大きな狼の魔物アス。
少し賢くて大きめのフォレストウルフだとエリュオンは言っているが、それ絶対嘘だよな!?
例によって子供の頃に子犬だと思って拾ったら、スクスク育って大きな狼になった上に、人語を理解するほど頭が良くて魔法も使えるって、犬どころかフォレストウルフってレベルではないよな!?
フォレストウルフって確かに賢いけれどもう少しこう小柄で、魔法は使えても簡単なものくらいの、Dランクの魔物だよな!?
ほら、あのハーレムパーティーのテイマー君が連れている狼が、一般的なフォレストウルフだよな!?
毛色も普通なら灰色っぽいフォレストウルフと違って、神々しい銀色だし、何より強さが明らかにAランクを超えているよな!?
ギルド職員としては、安全上の問題で非常に気になるところだが、エリュオンはうちのギルドの稼ぎ頭だし、安定した強さでどんな仕事でも器用にこなすから、変に探るのはやめておこう。
そう、その神々しい狼は、ちょおおおおおっと強そうなフォレストウルフ!!
そんなカリュオンのペット達ですら、未だ手がかりが掴めないあのクソニワトリ、なかなかやるな!?
町の中をウロウロとしているうちに通りかかったのが、俺の住むアパートメントの前。
くっそ、このまま部屋に帰ってベッドにダイブしたい。
「ワフゥッ!!」
そんな事を思いながら、アパートメントの門の前を通り過ぎようとした時、聞き慣れた鳴き声とハッハッという息づかいと、バタバタと足音が聞こえてきた。
「おう、ユウイチロウ。悪いなまだ仕事中なんだ」
「ンフゥ」
残念そうにため息をつかれても仕方ない。今は遊んでやれない。
「へー、長毛のゴールデンケルベロスか、珍しいな。ここはユーグの知り合いの家?」
門まで走って来たユウイチロウの頭を、ナチュラルに撫でながらエリュオンが言った。
エリュオンに撫でられたユウイチロウは、ご機嫌で地面にひっくり返り腹を見せて、三つの頭全てが超笑顔である。
おい、番犬!! それでいいのか!?
「知り合いんちじゃなくて、俺が住んでるアパートメント」
「へー、こんな可愛いケルベロスが番犬なのは羨ましいなぁ。部屋が空いているなら、宿住まいをやめてここの部屋を借りようかなぁ」
エリュオンよ、ユウイチロウが懐っこくて可愛いのはわかるが、仕事を忘れてなで回し始めるのはやめろ。
そしてユウイチロウよ、あまり地面でゴロゴロして砂埃にまみれると、管理人さんに怒られるぞ。
あと部屋は多分空いている。同じアパートメントに有能冒険者が住んでいるのは非常に助かる。
人が足りない時、すぐに声をかけられる的な意味で。
「うんうん、ねぇ君、この辺りで尻尾の長いニワトリを見なかったかい? もし見かけたら、アスに話してやってくれないか?」
「ワフゥ? ワフワフ? ンフ?」
エリュオンに話しかけられたユウイチロウの三つの頭が、話し合うように顔を合わせて頷き合っている。
ケルベロスは三つの頭は別々に意識があるのか、眠る時も別々で、どれかの頭が起きている為、番犬に非常に適しているのだ。
俺も頭が三つあったら、一つは睡眠用にできるのかなぁ……、いやいやいやいや、休みがないから、ついおかしな事を考えてしまった。
「ワフゥ」
「ワフフ?」
三つの首の話し合いが終わったユウイチロウがアスの方へと行き、真ん中の首がアスと鼻先を付き合わせて、二匹でワフワフと言っている。
何だ、犬会議か?
ユウイチロウはでかいはずなのだが、アスがそれよりでかいせいで、ユウイチロウが中型犬くらいに見えてしまう。
やっぱ、アスは普通のフォレストウルフじゃねーよな!?
飼い犬として穏やかに改良されているとはいえ、ケルベロスの方がフォレストウルフより圧倒的に格上のはずなのに、この二匹の様子を見ているとアスの方が圧倒的に格上感がある。
うむ……、きっとすごいフォレストウルフなのだな。ボスクラスの特殊個体なのかもしれない……って、そんなわけあるか!!
アスの正体も気になるが今更なので、そんな事よりあのクソ鳥の事が先だ。
「クワッ!」
ユウイチロウと話していたアスが顔を上げ、何か情報を得たのか先導するように道に出た。
「お、何かわかったみたいだな。ユウイチロウ君だっけ? ありがとう! またね!」
エリュオンがポーチから、小さな干し肉を三つ取り出して、ユウイチロウの方へと投げて、アスに先導するように促した。
「おう、ユウイチロウありがとな。また、休みの日に遊んでやるからな」
エリュオンに貰った干し肉を一口で飲み込んだユウイチロウに別れを告げて、歩き始めたアスとエリュオンの後を追った。
「うわあああああああっ!!」
アスに先導されて、町の住宅街を進んでいると、聞き慣れた声の悲鳴がすぐ近くから聞こえてきた。
「この声?」
「ああ、あのハーレムテイマー君だな、一応確認してみるか」
エリュオンと顔見合わせ、声がした方へと走り出した。
その方向は、アスが先導していた方向とだいたい同じであった。
声の方に向かうと、地面に尻餅を突いて呆然としている少年少女四人と、耳をペタンとさせて地面に伏せている狼の姿が見えた。
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