第27話◆ニワトリのくせに生意気な
「コケーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!」
「うるせぇ!! コケーッじゃねーぞ!! 観念して大人しく捕獲され……グアッ!」
目撃情報を頼りに逃げたコカシャモの一匹を発見し、袋小路に追い詰めて、さぁ捕まえるぞと手を伸ばしたら、クソうるさい鳴き声とともに身体強化を発動したコカシャモの、飛び蹴りを膝の下にくらい悶絶する事になった。
「コッコッコッコッコッコッ!」
思わずしゃがんで膝の下を押さえた俺の横を、コカシャモがスキップでもするかのような軽い足取りですり抜けて行く。
「こんのクソ鳥!! もう容赦しねーぞ!! あんま手間を取らせると、カラッと揚げて食っちまうぞ!?」
「コケッ!? コーーーーーーーーッ!!」
「逃がさねえぞ!! えぇい!! 止まれ!! 止まるんだ!! 食らえ影縛りいいいいいいい!!」
「ゴゲッ!!」
逃げようとしたコカシャモの影を固定して動きを封じる。
ふははははははは!! ニワトリのくせに手間取らせやがって!! 人間様の本気を舐めないで貰おうか!!
俺の闇魔法で影を固定されて動けなくなったコカシャモを、保護用に持って来ていた目の粗い頭陀袋に入れて、逃げられないようにその口を縛った。
「あと何匹残ってんだー?」
独り言を漏らしながら、袋を持っていない方の手で額の汗を拭い見上げた空には、満月の光と町の光に飲まれそうになりながら薄く光る星々が瞬いていた。
今日はもう祭りはそろそろお開きの時間。
祭りに繰り出していた人の姿は減り、その姿はまばらになり、道や広場に並ぶ屋台も閉店作業に入っていた。
コカシャモが逃走したのが、祭りが終わりに近い時間だったのは幸いだった。
人が少ない方が追いかけ回しやすいし、コカシャモが逃げた辺りから人を避難させやすかった。
人が減ってからは、祭りの警備に入っている冒険者達もコカシャモの捕獲に協力をしてくれて、順調にその捕獲は進んでいる。
近くにいた警備の冒険者を捕まえ、コカシャモの入った頭陀袋を渡し、祭りの本部に届けるように頼み、自分は次のコカシャモを探しに向かう。
「あ、ユーグ! そっちどう?」
逃げた場所と目撃情報を元に、コカシャモがいそうな場所をウロウロしていると、小鳥と狼を連れたエリュオンと鉢合わせした。
「おう、今一匹捕まえて渡して来た所だ。その前にも二匹? そっちは? てか、休みのとこ悪いな」
「俺もそんな感じかな。いや、正直あの女の子達から逃げる口実ができて良かった」
贅沢な話だな!?
いや、あれは羨ましいとは思えないな……。
「数は二十って言ってたし、テイマー少年君のパーティーも手伝ってくれてるし、このペースならすぐに終わるかなー」
「そうだなー、さっさと終わらせて帰ろ。ユーグは明日も仕事だろ?」
当然のような聞き方をするな。
当然のように仕事だから悲しくなる。
「まぁ、明日は内勤だから楽かな。でもさっさと終わらせて、帰って寝るぞ!」
「俺も明日は仕事あるし、早く終わらせよ」
「コケッ」
俺とエリュオンの話に相槌を打つように、足元からニワトリの鳴き声がした。
足元を見ると、俺達のすぐ横でずんぐりとした体型に、長くて立派な尾を持ったコカシャモがうんうんと頷いている。
「アッ!! コイツ!!」
「コケェ!?」
思わず声を上げた俺をバカにするように、コカシャモが首を傾げて走り出した。
「逃がさねーぞ!! 食らえ! 影縛り!!」
すぐさま闇魔法でコカシャモの影を固定しようとした。
影縛りというこの魔法は捕り物にはすごく便利なのだ。
「コッ?」
固定したと思ったら、コカシャモが鼻で笑うような鳴き方をして、魔法を放った。
コカシャモが放ったのは光魔法、小さな光がプカプカと周囲に浮かんで、コカシャモの影を消してしまった。
「んな!? ニワトリのくせにい!!」
影が消えてしまっては、影を固定する事により相手の動きを封じる影縛りは意味がない。
無駄に賢いニワトリだな!!
「賢いニワトリみたいだけど、俺の魔法からは逃げられないぞ!」
エリュオンが手から光の網をコカシャモに向かって放った。
「コケッケエエエエエエエエエエエエッ!!」
その直後、コカシャモが耳が痛く鳴るような声で鳴いた。
「うわ! うるさっ!!」
ただうるさいだけではない。
「コケッ!」
「ココッ!」
「コケケッ!」
「コッコッコッコッ!」
「ココーッ!」
「コケコケ?」
「コーッ!」
「コッ!!」
ずんぐりコカシャモの声に反応して、次々と物陰からコカシャモが姿を現した。
その数八匹。まだこんなに残っていたのかよ!! 他の奴らほとんど捕まえていないな!?
くっそ、報酬は出来高制にしておけば良かったか!?
ここにこれだけいるという事は、残っている奴はこれが全部の可能性もありそうだな。
「纏めて捕まえて……」
「コッコケーーーーーーーーッ!!」
「は?」
コカシャモを捕まえようと、俺達が身構えるより早く、ずんぐりコカシャモが大きな鳴き声を上げ、それと同時にコカシャモ達が俺達に飛びかかってきた。
てんめ! ニワトリの分際で仲間を指揮してんじゃねーぞ!!
いてっ! 数の暴力やめろ!!
突くな!! 蹴るな!! 髪の毛を毟るな!!
髪の毛はマジでヤメロ!!
「ニワトリのくせに生意気だな! ワールウィンドやっちゃって!!」
コカシャモにブチブチと髪の毛を毟られていたエリュオンが、ついにキレた。
「おーい、一応酷い怪我をさせない程度でなー」
数の暴力とはいえ、怪鳥ルフの本気の前ではコカシャモなんかヒヨコみたいなものだ。
「ははははははは、ちょっと怪我しても回復魔法があるから問題ないさ」
あ、これめっちゃキレてるわ。
賊を捕まえる時にエリュオンがよくやっているやつだわ……死ななきゃ回復できる。
完全に目が据わってるわ。ヒーラー様怖えーなー。怒らせんとこ。
「はーーーーー、クソ鳥どもめ、思い知ったか!!」
エリュオンがハァハァと肩で息をしながら、ワールウィンドが蹂躙したコカシャモを光魔法の縄で縛り上げている。
「これで全部かな?」
キレたヒーラー様とそのペットの本気により、見える範囲のコカシャモは捕縛された。
なお、思ったより抵抗をされ、俺もエリュオンも髪の毛がボサボサである。
ホント、捕獲依頼ではなかったらカラッと揚げて晩飯コースだった。
「一、二、三、四……、あれ? 八匹しかいないな」
捕獲したコカシャモを保護用の袋に詰め込みながら、エリュオンが首を傾げた。
「アッ! 最初にいた尻尾の長い奴!! アイツがいない!!」
くっそ、どさくさで逃げられたか!?
あの尻尾の長い奴が他のコカシャモに命令しているような雰囲気があったし、アイツだけ少し賢い可能性がある。
ニワトリの分際で生意気な。
しかし纏めて捕まえたせいで袋も足りないし、エリュオンの光魔法で縛り上げたまま、祭り本部の保管場所に持って行ってから尾の長い奴を探すか。
あの人間を小馬鹿にしたような態度の奴、どちらが上か、わからせてやろうじゃないか!!
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