第25話◆ギルド職員のプライベート
祭りを楽しむ人々を間近で眺め、心に闇を貯め込みながら、屋台の店番の仕事を予定時刻に終えた。
祭りは夜まで続く為、朝から串焼きを焼いている俺と交代で、別の冒険者が屋台に入った。
交代の時間の五分前には来てくれた有能な冒険者君だったよ。おかげで俺は時間ぴったりに上がれた。
時間を守るのは当たり前の事だが、その当たり前ができない奴はたくさんいるからな。当たり前ができる人に俺は感謝する事にしているのだ。
君の給料査定にはプラスを付けておいてやろう。なぁに、これはギルド職員の仕事だからな。
どんな些細な事でも評価できる事はちゃんと評価するし、冒険者に還元する。
冒険者ギルドにとって冒険者は財産なのだ。組織とは人がいなければ成り立たない。人を大切にしない組織に未来はない!!
感謝の気持ち、労働への正当なる評価を、手っ取り早く効率的に尚且つ正しくわかりやすく伝える事ができるのは金だ!!
仕事を評価してちゃんと金として還元するからこそ、冒険者との信頼関係が生まれるのだ。
つまり、みんなが休日の日に仕事出てくれてありがとう、少し早めに来てくれてありがとう!!
一分たりとも残業のない日。そんなの何年ぶりだろうか。
朝から屋台の店番をして、夕方前に交代。
祭りは夜まで続くので、この後祭りを楽しむ時間はある。
まぁ、一緒に行く恋人や友達もいないから、一人でブラブラするだけだがな!!
家と職場の往復だけでは、恋人も友達もできねーわな。
いーもん、いーもん、祭りくらい一人でも楽しめるもん……くそがっ!!
まぁ、一人でブラブラする方が、行きたいと思いついた場所にすぐ行けるしな。
といっても、どこか行きたい場所なんてないし、そもそも人の多い場所苦手なのだよな。
適当にブラブラしながら買い食いして、家に帰って寝るか。睡眠時間大事。
ブラブラしながら、今日働いている冒険者の様子をこっそり見てみるか。
別に仕事をするわけではない、ちょっとプライベートで冒険者達が働いている場所を覗いてみるだけだ。
お、ザーパトの爺さんも屋台の店番の仕事か。
肉を捌く包丁の使い方が、明らかに達人オーラを醸し出しているぞ。
包丁捌きはすごいが、耳が遠いのは大丈夫なのか?
あ、耳が遠いふりをして多く売りつけてやがる。第二の人生、商人が向いているのじゃないか?
いやいやいやいや、何だかんだでザーパトの経験から来る状況判断の良さは、若い冒険者達の良い見本になるし、ここぞという時に頼りになる。
しかも、中ランク帯の仕事はわりと何でも快く引き受けてくれるから、常に人が足りない冒険者ギルドにとって重要な人材だ。本人が冒険者でいるうちはよそにはやらん。
うっわ、あれエリュオンか。周りに何人女を侍らせているんだ!?
うらやまけしからん!! ……いや、何だアレは、女同士の殺気がここまで届きそうなくらいピリピリしているなー。
お得意様の接待か……アイツもよくやるな。
デートの約束を、全員同じ日の同じ時間に入れるなんて、効率的かもしれないがおっそろしい事するなぁ……いつか刺されるのではなかろうか。
冒険者ギルドの受付でたくさんの人を見てきた俺にはわかる。
横にぴったりくっついて歩いている、黒髪ストレートのロングヘアで、黒を基調にしたフリルだらけのワンピースの女の子。
それ絶対ヤンデレ系だぞ!! 気付いたら家のドアの前に立っている系のオーラが出ているぞ!!
……まぁ、頼もしいペット達が守ってくれるだろう。ガンバレ。そしてイキロ。
む、あれはDランク君とその彼女達か。
柄悪そうなおっさんに絡まれているな、助けてやるか?
いや、冒険者たるものそれくらい自分で捌けるよな? それに俺は勤務時間外だしぃ?
彼女達も弱いわけではないし、まぁガンバレ。
破落戸に絡まれるのは、可愛い女の子に囲まれている奴の宿命だ、彼女達にいいところを見せてやれ。
お? テロスがいるな? 夕方からのイベントの警備要員か。
子供にたかられているなー。黒い馬はかっこいいもんな。まぁ、その馬、頭がないのだけれど。
あ、子供にもみくちゃにされてテロスの頭がもげた。
子供がびびって泣きそう……いや、大はしゃぎしているぞ!?
子供達よ、それは大道芸でも手品でもなく、本当に頭が取れたのだよ。
ガラン。
馬の頭防具も取れたな。
え? 首無し馬ですら喜んじゃうの?
大人は気付いてびびっているけれど、子供は無邪気だなぁー。
将来、肝の据わった大人になりそうだな、冒険者ギルドにスカウトしようかな。
ところでテロス、脇に抱えた頭がすごく物足りなさそうな顔になっているぞ。
せっかく子供が喜んでくれているのだ、そこはもっと嬉しそうな顔をしろよ。
おっと、勤務中ではないのに、つい冒険者達の仕事場を覗きに来てしまったぜ。
休みの時はちゃんと休んで、プライベートを楽しまないとな。
せっかくの祭りだし、屋台をまわってみようかな。
お? 射的屋か、魔砲使いの俺の神のようなエイム力を見せてやろうか。
へー、ただの遊びだと思ったら、よくできた魔砲のおもちゃだな。
なるほど魔石を動力源にして、トリガーを引くだけだから、魔力操作を学んでいない子供でも撃てるって事か。
ああ、ここで弾速を調整して、ここで弾の軌道を調整できるんだな。セーフティも付いていて、おもちゃにしては本格的だな。
もちろん、法で定められた弾速を超えないように作られているな。
本格的にするにはいいが、やりすぎて威力が上がると登録しないと、罰せられて前科になるから気を付けろよ。
ん? そうならないように威力は落としてある?
まぁ、威力を上げすぎると魔石がすぐ消耗するからなぁ、魔石動源の魔砲は威力のわりにコスパ悪くておもちゃの範囲のものが多いんだよな。
おもちゃの範囲と言っても当たると痛いし、目に当たると失明の危険もあるから、絶対に人や動物に向けて撃ったらダメだぞ?
ん? なんでそんな詳しいかって? 冒険者ギルド職員たる者、魔砲の扱いくらい慣れているものだ。というか俺のメイン武器が魔砲。
よし、では俺も少しやってみるか。
ああ、設定ミスって威力が弱くなりすぎてた?
威力が弱すぎたら小さな景品も落とせなくなるからな。大きな景品を一発で落とされたら商売にはならないだろうから、客と揉めないように上手くやるのだぞ。
あ、そうそう、それにしても良い銃だな。コレを作った職人はさぞかし腕の良い職人なのだろう? 紹介してもらえないかな?
おう、ありがとう。近いうちに尋ねてみるよ。
では、撃ってみるか。
パァンッ!!
本格的で良い魔砲を使っている射的屋だったので、つい話し込んでしまった。
変なお菓子を当てたついでに、オマケで妙な顔のヌイグルミまで貰ってしまった。
良心的で人当たりのいい店主の屋台だったな。景品もなかなか豪華だったし、祭りは明日もあるし魔砲好きの知り合いにも勧めておこう。
次はどの屋台に行こうかなぁ~。
広場か、広場にもたくさん出店が出ているな。
人が多い広場の真ん中に、若者達が溜まって座り込んで暇そうにしているな。
祭りの日に、暇そうに座り込めるって羨ましいな。暇なら冒険者ギルドに登録して働いてくれないかな?
体格も良くて健康そうな若者達だな、声をかけてみるか。
使えそうな人材を見つけたら声をかけるのもまた仕事なのだ。
君達、冒険者ギルドに登録して冒険者になってよ。
できるだけ優しく、爽やかで友好的に勧誘したぞ。
あ? うるせぇ? どっか行け?
やー、暇そうに座っているなら、その時間は冒険者として働けば儲かるよ?
お、なかなかいいパンチだな。少し鍛えれば、すぐにいい冒険者になれるぞ?
「キャアアアアアアッ!!」
む? 女性の悲鳴?
この人混みの中でひったくりか。
よし、こちらに走って来ているな。
「よし、止まれっ!」
やー、こういう時、闇魔法は便利だなぁ。
女性のバッグを奪ってこちらに向かって逃げて来ている男の影を闇魔法でビシッと固定すると、地面に落ちた影と同じポーズで男の体が固定された。
男は何が起こったかわからない風で、目をキョロキョロとさせている。
俺が影を固定させてしまったので、影に反映されない部分しか動かせないのだ。
よぉし、ひったくり犯確保。
祭りの日は人混みに紛れてしょうもない犯罪をする奴が多くて困るな。
バッグは持ち主のお姉さんに返して……おっと持ち主のお姉さんが悲鳴を上げたから、広場の警備員が来たな。
なんだ、ギルドが派遣した冒険者の奴らじゃないか。
「あ、ユーグさんじゃないですか。もしかして、今日は私服で警備員の仕事ですか? 大変っすねぇ」
「ちげーよ、休みだよ休み……いや、仕事が終わった後だな。じゃあ俺は一般人に戻るから、コイツはよろしく」
捕まえたひったくり犯を、広場の警備にあたっていた冒険者に引き渡した。
また、つまらぬ時間外労働をしてしまった。
その場にいたのだから、仕方ないな。ひったくり犯を見過ごすなど、俺の正義の心が許さない。
「勤務時間外に、ご協力ありがとうございました」
ひったくり犯を引きずるようにして連れていく冒険者を見送って、広場で駄弁っている若者達を振り返った。
「どうだ、お前達も冒険者にならないか? いや、なろう? 明日からすぐできる仕事もたくさんあるぞ」
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