第20話◆撤退不可能

 吐き出される炎に照られたエリュオンの影に向かって、影渡りで移動する。

 即座に魔砲を構え、吐き出された炎に向けて魔力の弾を発射した。

 レッドドレイクの吐き出した炎と、俺の撃ち出した魔力の弾がぶつかって、エリュオンのバリアの直前で弾けた。

 とっさに撃ち出した威力不足の弾だった為、炎は完全に相殺されず、残った炎がエリュオンのバリアにぶつかってジュウジュウと音を立てて消えていき、バリアの内側にもその熱が伝わってくる。


「あぶねぇ、助かった。あんなの直撃したらシールドでも完全に無効化は無理だったよ」

 バリアを維持しながら、エリュオンが額の汗を拭った。エリュオンはバリアを維持しながら、レッドドレイクと戦うテロスと狼の魔物アスに、回復魔法を飛ばしており、足元には魔力回復に使ったポーションの瓶がいくつも転がっていた。

 そのエリュオンの後ろには少年のパーティーと少年の使役する狼の魔物、そしてザーパトがいた。

 ザーパト以外はレッドドレイクの攻撃を呆然と見つめており、その足元には傷ついた狼がぐったりとしている。

 ザーパトも負傷しているようで、左腕からダラダラと血を流しながらレッドドレイクの動きを目で追っていた。


「アテッサ、ギルドに救護班の要請をして彼らを先に避難させてくれ」

 とりあえず彼らを避難させなければ、彼らを守るエリュオンの負担が大きい。

 ザーパト達はアテッサに任せて、この場から避難させようと思った直後、レッドドレイクが咆吼を上げ周囲の空気が震えた。

「あー、アイツ仲間呼んだよ」

 キルキルがのんきな声で言うが、周囲から姿を現した魔物の数はかなり多い。

「逃がす気はないってか? アテッサ、ギルドに援護要請を」

「ちょっと待って!? 通信機が繋がらないわ」

「マジかよ」

 空間魔法によって生成されるダンジョンは、深部まで行くとギルドの通信機が繋がり難い場所も多い。

 どうやら、コイツを倒さないと戻れないようだ。


「広い部屋は私はあまり役に立てないから、私がこの子達の面倒をみるわ。エリュオンはドレイクに集中して」

「わかった、そっちは任せた。一応ワールウィンドを護衛につけとくよ」

 大きな鷲サイズになったルフがバサバサと、アテッサの方へと飛んでいく。

「俺とキルキルは雑魚をやるぞ」

「はいよー」

 キルキルが背中に背負っていた弓を構え、弓をつがえた。

 俺は魔砲に魔力を込める。

「じゃあ、バリアを解除するぞ」

 エリュオンの張っていたバリアが解除されたのを合図に、俺とキルキルはレッドドレイクが呼んだ魔物に攻撃を開始した。


 キルキルが右手の矢に魔力を込めて魔物に向けて発射する。魔物に刺さった矢は、周りの魔物を巻き込みながら小爆発を起こす。

 キルキルは弓と魔法を合わせた戦闘スタイルである、魔法を単体で使う事もあれば、このように弓矢に魔法を乗せて放つ事もある。

 爆発に巻き込まれた魔物が纏めて吹き飛んだ。

 キルキルに続き俺も魔物の群れへと、魔砲を撃ち込む。今度はしっかり魔力を詰め込んだので、高威力の弾が発射される。狙うのは魔物そのものではなく、魔物が集まっている付近の床。

 床に当たった魔力の弾がドーンッと音を立てて炸裂し、爆風で周囲の魔物が纏めて吹き飛んだ。

 よし、雑魚はあまり強い魔物ではないようだな。さっさと片付けて、テロス達の援護をしよう。


 俺とキルキルの攻撃をすり抜け、まだ残っている魔物がこちらへと向かってくる。

 よくよく考えたら俺もキルキルも主力は遠距離系だから、距離を詰められると面倒くさいな。

 近づかれたら魔砲で殴るか。俺の魔砲はデカイので鈍器の代わりもなる。堅すぎない相手なら多少殴っても問題ない。

 ピョーンと飛びかかって来た小型のトカゲを魔砲の砲身で打ち返そうと思っていたら、そのトカゲが目の前で真っ二つになった。


「ここはわしに任せて、お前さん達はあっちのデカブツをやるんじゃ」

 声の方を振り返ると、左腕から血を流しながらザーパトが二本の剣を構えて立っていた。

 あれ? さっき一本折れていなかったか!?

「剣士たる者、予備の武器くらい持っとるわい」

「僕達も戦えます」

 少年パーティー達も俺達のところにやって来る。

「どうせ撤退は無理そうだし、雑魚はあまり強そうじゃないからこっちでやるわ。そこのヒーラーの子、ザーパトさんの腕に回復魔法かけてあげて。ザーパトさん、悪いけど頑張ってもらうわよ、深刻な近接不足なの」

「やれやれ、ギルドの職員は人使いが荒いのぉ」

「了解した。雑魚が減って撤退できそうなら、先に撤退してくれ」

「わかったわ」

 ルフもついているし、雑魚のランクはDランク程度の為、任せても大丈夫と判断して、俺とキルキルはレッドドレイクの方へ。



「テロスとエリュオンを援護するぞ」

「りょっかいー」

 キルキルが魔力を込めた矢をレッドドレイクの目に向かって放った。

 ドレイクがその矢に気付き、前足でそれをはたき落とした。

 矢が防がれる事は予測済みで、レッドドレイクの注意がキルキルに向いた一瞬の隙に、テロスが槍を突き出してレッドドレイクに突進した。

 テロスの攻撃がレッドドレイクの脇腹に深く刺さり、その反対側からはエリュオンの狼が後ろ足に食らい付く。


 俺は魔砲に魔力をたっぷり込めて、レッドドレイクの頭にめがけて撃ち込んだ。




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