第19話◆ラウルスの爆弾女

 俺達の存在に気づいたアントロデムスが咆吼を上げならこちらに突進して来るのが見えた。

 その大きさは五メートルオーバー。気配と大きさから推測される強さはB程度か。

 アントロデムスはブレスや魔法は使ってこず、巨体にものを言わせた物理攻撃だけしかしない。噛みつきや踏みつけなどの即死級の攻撃に気をつければこのメンバーなら問題のない相手だ。

 左目には折れた剣の先が刺さっている。あれは先ほど見つけたザーパトの剣の先端か?


 長い筒状の魔砲を担ぎ、こちらに向かって走ってくるアントロデムスの頭部に狙いを定める。

 そのアントロデムスがちょうど魔砲の威力が落ちない射程に入った時、何かに絡め取られたように動きを止めた。

 アントロデムスの体の周囲にうっすらと半透明の銀色の細い糸でできた網が、通路を塞ぐように張り巡らされているのが周囲の明かりを反射して浮かび上がる。

 そして、その網を仕掛けた当人――アテッサの声が前方の天井付近から聞こえた。

 アントロデムスの潰れた左目のやや後方、奴からは死角になる天井付近の壁にフックを使って張り付いている。


「発破!!」


 小さな瓶がアントロデムスに向かって放り投げられ、パンパンと連続した爆発音と共に爆発し、アントロデムスを絡め取っていた細い糸も最後にドーンと音を立てて爆発した。

 ラウルスの爆弾女――彼女の事を知る冒険者はアテッサの事を陰でそう呼んでいる。

 なお、本人の前で言ったらぶち転がされるので禁句だ。

 罠と爆薬と毒薬に長けたギルド職員。それが爆弾女と異名をとるアテッサだ。


 爆発でひるんだアントロデムスの頭部に俺が魔砲を撃ち込み、胸部にはテロスの投げた槍が刺さった。

「僕達の出番がなかったね」

 攻撃に参加する事なく明かり役となってしまったキルキルがぼやいた。

 もしもに備えて戦力は多めできたからな。出番がないのは良い事だ。

「いんや、まだ奥に何かいるな。気配を消すのが上手い奴。ここまで見かけた魔物が全て亜竜系だったって事は、おそらく亜竜か竜系だな」

 肩にとまって、キーキーと警戒の声を上げるルフの喉を撫でながらエリュオンが言った。

 用心深く気配を探ると、奥の方からアントロデムスよりも強そうな魔物の気配を感じた。

 距離はまだ離れている。俺は離れた場所にいるものの気配を探るのが得意ではない為、この先に何か強い魔物が気配を消しながら潜んでいる程度しかわからない。


「ああ、こっちが本命かもしれないな。ザーパトが上手く他の冒険者を誘導して躱して逃げているようだが、限界も近そうだから、俺が先行しよう」

 テロスが暗い通路の奥の方へ馬を向けた。テロスが馬を進め始めると、アントロデムスに刺さっている黒い槍がふわりと抜けてテロスの手の中に戻った。

「テロスだけでも大丈夫そうだが、俺も行っておこう。一人では守りながら戦うのは難しいだろう」

 エリュオンもアスに跨がりテロスに続いて奥へと先に進み始めた。

「わかった。生存を優先で動いてくれ」

 鈍足の俺達はその後を遅れて走って追う。



 先行したテロスとエリュオンの姿が見えなくなって暫くして、魔力が激しく衝突するのを感じた。

「え? これBランクどころじゃないでしょ?」

 アテッサが抱き込むように両腕をさすっている。

「ああ、これは俺でもわかるな。低く見積もってもB+、おそらくA。もしかするとA+かもしれない」

「A+かー、僕達が行っても邪魔になるかもしれないね」

 キルキルの言うとおり、状況次第では足手まといになる可能性が高い。しかし、要救助者がいる以上行かない訳にもいかない。

「状況を見て、テロス達の戦闘の邪魔になりそうなら、ザーパト達を保護して速やかに引くぞ」

 他人を守りながら戦うのは非常に難しい。

 俺達では戦力外かもしれないが、戦える者が実力を発揮する為の援護はできる。


 通路を更に進むと大きな部屋に出た。そこでテロスとエリュオンの使役する魔物が、大きな竜種と戦っているのが目に入った。

 レッドドレイク――Aランクの下級竜種だ。

 尻尾まで入れると十メートル近い大きさがある。

 既知の魔物の中では最強クラスである竜種の中では、このAランクのドレイクですら下級という位置付けだ。


 そして、テロスと魔物達が戦っている後方では、エリュオンが四人の冒険者を庇うようにシールド系の防御魔法を展開していた。

 その、エリュオン達がいる場所にレッドドレイクが炎を吐くのが見えた。

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