第18話◆痕跡を追って
点々と転がる魔物の死体は広間を出て通路の方へと続いていた。
今回発見された階層が元々あったもので、今になって床が消えて通路で繋がったものなのか、床の消失と同じ時期に出来たものなのかは調査してみなければ詳しい事はわからない。
ただ、この階層は今まで人が立ち入る事がなく、間引きされていない状態で魔物が棲息しているという事実には変わりない。
ダンジョン内はダンジョンにより魔物が自然発生するが、冒険者の出入りの多いダンジョンでは冒険者によって魔物が駆除されその数を減らされる為、魔物の密度はさほど高くない。
ダンジョン内での魔物同士で食物連鎖が発生する為、過剰に魔物が増える事は滅多にないが、それでも人の出入りの少ないダンジョンでは魔物の密度は高くなる。
そして、ここは新階層。今まで人の手の入る事のなかった階層である。落ちている魔物の死体からも裏付けられるように、この階層には多くの魔物が潜んでいるようだ。
「襲いかかってくる細かい魔物を倒しながら、大型の魔物から逃げているのかな」
点々と転がる魔物の死体の先に向かいながら、エリュオンが言う。
回収もせず魔物の死体を放置しているという事は、その時間がなかったという事だ。
この落ちている魔物死体を辿って行けば、冒険者達を見つける事が出来るはずだ。
しかし、俺達の前には大型の魔物がいるのは確実で、この階層に落ちた冒険者達を救出する為には、この大型の魔物を排除しなければいけないだろう。
「テロス、大型の魔物はどうにかなりそうか?」
テロスだけに任せるわけではないが、戦力的にも暗い場所での戦闘になるとテロスが主力になる。
「俺の方が強かったら勝てるな」
なんともテロスらしい回答である。
幸い小型の魔物はテロスを恐れて姿を見せていない。テロスを恐れて姿を見せないのは小さな精霊も同様で、キルキルとエリュオンも下位の精霊が使えない状態だ。
その為ダンジョン内を照らすのは、光魔法で作った明かりと照明用の魔道具である。
大型の魔物はその気配からしてCランク以上である事は確実だ。倒されている魔物はDランク程度かそれ以上、このエリアの難易度は低く見積もってCランク程度か。
今後はダンジョンのランクを引き上げるか、このエリアへの立ち入りを制限する必要がありそうだ。
周囲を警戒しながら点々と続く魔物死体と、大型の魔物の足跡を辿ってダンジョンの中を進んだ先に、泥が混ざった血だまりと、刀身の半ばで折れた長剣が目に入った。
その近くには、首を落とされた中型の魔物の死体が転がっていた。
周囲の壁には何かがぶつかって削られたような大きな傷もあり、ここで戦闘行為があった事が窺える。
「これはザーパトさんの剣のようね?」
ザーパトは双剣使いだ。という事は、ここで武器を片方失った事になる。
ここまでの間に見かけた魔物の致命傷は、ほぼ剣によるものだった。つまり、魔物を倒しているのはザーパトだ。
そのザーパトがここで剣を片方失って、戦力は激減している。早く追いつかなければ。
大型の魔物の気配は先ほどより近くなっている。間もなく追いつけるはずだ。それまで、全員無事である事を願う。
「む、先にいる魔物がこちらに向きを変えたようだぞ。気配を消している冒険者より、俺達と遊びたいようだな」
先を進んでいたテロスが馬を止め、その手に真っ黒い長い槍が現れた。
俺のすぐ前を歩いていた、狼がグルグルと警戒のうなり声を上げた。
「キルキル、明かりを頼む!」
「はいよー」
エリュオンが身体強化の魔法を全員にかける。エリュオンは魔物使いであると同時に、優秀なヒーラーである。
俺は収納具の中から魔砲を取り出して魔力を込めた。
ダンジョンの奥からはドスドスという重い足音が聞こえ始め、通路の暗闇の中から二足歩行の大型トカゲのような魔物が姿を現した。
アントロデムスと呼ばれる二足歩行の亜竜種の魔物で、その強さはBランク以上だとされている。
おいおい、Dランクの洞窟に出現するような魔物じゃないだろ!?
戻ったらダンジョンのランクの変更を急がなければいけないな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます