第17話◆現場到着

 床が消失したというのは、ダンジョンの二階層目のメインルートから外れた場所。

 このダンジョンは洞窟状のダンジョンで鉱石素材が多く、採掘目的の冒険者がよく訪れる場所である。床が消失した現場は鉱石の採取場所として人気の場所だった。


 メインルートから外れた道の突き当たりにある大きく開けた空間で、鉱物資源の多い場所だが魔物も出現する為、魔物を駆除しながらの採取作業になる場所だ。

 周囲の壁には人工的に取り付けられた明かりと、ダンジョンに自生する光る苔でほんのりと明るい。

 その開けた空間の中央部分の床に大きな穴が空き、そこから急斜面の崖のような坂道が見える。この坂道の先が今回見つかったという、新階層だと思われる。

 その坂道は深くまで続いており、上からでは暗くて終点がよく見えない。


 穴の周りには、俺達より先にギルドから派遣された冒険者達が、立ち入りの制限と新階層の警戒の為、警備をしていた。

 先に派遣された冒険者達は、更なる被害を避ける為、空いた穴の警備のみの指示で、状況のわからない下には降りていない。



 小規模なDランクのダンジョンだが、それは階層の数の話で、空間的な広さはエリュオンの従える魔物や、テロスの馬が入るには問題のない広さはある。

 さすがに巨大化したルフは無理だろうが、そのルフは今は小鳥の姿でエリュオンの肩にちょこんととまっている。


「ここは俺が先に降りようか」

 穴の先の坂道はテロスが馬に乗った状態で下れる程度の広さで、彼が自分が先行する事を提案した。

「ああ、よろしく頼む。気を付けて降りてくれ」

「テロスの次は俺が行こう」

 狼の魔物アスの背中に跨がったエリュオンが言う。

 高性能の騎獣羨ましいな! 俺を含めた他の三人は、ダンジョンまで乗ってきた騎獣を入り口で警備の者に預けて来たので、内部は徒歩である。


「私達は道具を使ってゆっくり降りるしかないみたいね」

 アテッサが急斜面を上り下りする為の、かぎ爪付きのロープを取り出した。

「僕は浮遊系の魔法で降りちゃうよ」

「俺も誰かの影にくっついて行くかな」

 キルキルは魔法が得意なので浮遊系の魔法で降りるようだ。俺は、先に降りる奴らの影を渡って行く。

「アンタ達は便利そうな魔法が使えて羨ましいわね」

「む? ならば俺の馬に乗って行くがいい」

「え? ふへ? ひゃあああああああ!?」

 ロープで下りるしかないアテッサを気遣ったテロスが、問答無用でアテッサを馬の上にひっぱり上げ、そのまま崖を下って行った。

 アテッサの姿が悲鳴と共に穴の坂道の先へと吸い込まれていく。

 さすが妖精、女性だろうが容赦ない。いやこの場合、気遣っただけだな。


 テロスの後を続いて、急斜面を下り始めたエリュオンの影を追うように影渡りを繰り返す。

 楽だけど、魔力の消費が激しい。今日一日寝ていなかったら、途中で息切れしていたかもしれない。



 一番下まで降りると、光る苔のうっすらとした光しかない暗い空間に、楽しそうなテロスと死んだ魚のような目をしたアテッサがいた。

 無事に降りられたようでなにより!

 最後にキルキルがふわりと降りて来て、新階層に全員到着。

 キルキルが光の魔法で周囲を照らすと、俺達の降りてきた場所は広い空間で、転々と小型の魔物の死体が転がっていた。

 あまりランクの高い魔物ではないようだが、数が少々多く、それを倒したのは滑落した冒険者だと思われるが、その姿は見えない。


 とりあえず、下に落ちた後は生存していたようでホッとした。

 しかし、それも束の間。点々と落ちている魔物の死体の中に何かに踏み潰されたようなものがある事に気づき、明かりの魔道具をつけ床を照らした。

 床にはやや大型の魔物のものだと思われる、かぎ爪のある足跡が残っており、魔物が転々と転がる先へと向かっていた。

 その魔物と足跡の隙間に、小さめの靴跡が三人と獣の足跡、そして大人の靴跡が一人。

 入り口にいた少女の話から察すると、彼女のパーティーメンバーの他に、それの救助に向かった高齢の冒険者――おそらくザーパトがこの階層にいると思われる。 


「全員生きているようだが、負傷者もいるな。そして大型の魔物が、それを追っているようだ」

 冒険者達は気配を消して、大型の魔物から逃げているのか俺には人の気配までは拾えない。だが暗闇の中の行動が得意なテロスにはわかるようだ。


 大型の魔物気配の方は俺にもわかる。何かを探しているような雰囲気。そして、それは俺達にも気づいたようだ。

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