第16話◆緊急時のお仕事
夜勤明けで休みの日の夕方前、職場からの伝話で起こされ、その内容を聞いて慌てて身支度をして、ギルドへと向かった。
何だよ、ダンジョンの床が消えて、新しい階層が発見されたって!?
「休みのところ悪いな、ユーグ」
「仕方ない。それで、状況は?」
冒険者ギルドに到着すると、スーツの上からでもわかるガッチリムチムチの筋肉質な大男――普段は表には出てこないラウルス支部のギルド長が、受付カウンターにいた。
普段は奥で管理業務に追われている、ギルド長が陣頭指揮を執っているなんて相当の事である。
しかし、事が事なので仕方がない。ダンジョンの地形が変わって、新しい階層が発見されるなんて早々ある事ではない。
ダンジョンは詳しい事は解明されていないが、自然発生した高密度の魔力によって形成された空間で、その内部には複数の階層があり、外部とは全く違う空間になっている。
ダンジョンの内部には、ダンジョンが作り出す魔物が多数生息しており大変危険だが、それと同時に資源も多く生み出され、人々の生活や経済を潤す一環となっている。
このダンジョンを管理するのが国や冒険者ギルドで、ダンジョンの探索は冒険者の花形業務である。
もちろん、魔物が闊歩する場所なのでランクによって厳しい入場制限がある。
ラウルス付近には危険な区画の多いCランクのダンジョンが一つ、比較的安全なDランクのダンジョンが二つあり、今回新しい階層が見つかったというのはDランクのダンジョンの一つである。
受けた連絡によると、入り口に近い階層で突然床が消えて、その下に未知の通路があり新たな階層が発見されたそうだ。
ダンジョンは自然発生的な空間魔法で生成された物だと言われ、魔力が不安定になるとごく稀に今回のような地形変化が起こる。
「領主には連絡をしたが、本格的な調査隊は先になる。ダンジョンにいた者はほぼ避難を終えたが、床が消えた際に下の階層に滑落した者もいるらしい。一部は救出したが、まだ数名残っていると思われる。今は先遣隊が現地に到着して、立ち入りの制限とまだダンジョンに残っている者の保護をしている。ユーグには、新たな階層へ落ちた者の救助へ向かう班の指揮を頼む」
「了解した、メンバーはここにいる面子でいいのか?」
カウンターにはエリュオンとキルキルにテロス、そして今朝俺の隣のカウンターに座っていた女性職員アテッサが集まっていた。
キルキルは今日は休みだった気がするが、エリュオンは朝から仕事して戻って来たところではないだろうか。
テロスは本来は夜間の警備の仕事が入っていたはずだが、緊急事態なのでこちらに回されたのだろう。まだ少し明るいうちに引っ張り出された為か、いつもより少し大人しい。
そして、アテッサは早朝出勤だったので昼過ぎには上がりのはずなのだが、ここにいるという事は、残業中にこの報告が飛び込んで来て残業が更に伸びたのだろう。
親近感というか仲間意識が増すな。
「さっさと終わらせて帰るわよ」
やばい、めっちゃ殺気が出ている。
「指揮はユーグランスで、アテッサが補佐だ。自分達の生存と滑落した者の保護が最優先だ。無理に新しい階層の情報を集める必要はない」
集める必要はないが、気づいた事の報告は必要になってくるし、後日派遣される調査隊の為にも、見える範囲での情報は持ち帰らなければならない。
それに、Aランクのテロスをこちらに持って来たという事は、新階層のランクが高めと予想されているのかもしれない。
件のダンジョンは、ラウルスの町から足の速い騎獣で一時間足らず。
元々あまり規模の大きなダンジョンではなく、難易度も入り口付近はE以下、深部でもDと初心者向けのダンジョンだった。
その為、普段このダンジョンに来るのは、Cランク以下の冒険者ばかりである。
だが、今はギルドが派遣したCからBランクの冒険者と、役所が派遣した兵士達が入り口を警備している。
入り口周辺では、ダンジョンから脱出して来たと思われる冒険者が、数名休んでいるのが見えた。
その中に見覚えのある少女がいた。
「君は……」
「朝の職員さん!」
今朝、受付カウンターでごねていた少年少女パーティーの、剣士の少女が俺に気づいて駆け寄ってきた。
「君達もここに来ていたのか。他の子達は?」
「それが床が消えた時に一緒に滑り落ちちゃって。私は途中で引っかかって、その後、お年寄りの冒険者さんに、助けてもらったけど他のメンバーがそのまま下に! その冒険者さんも下に降りて行っちゃってまだ出て来ないんです!!」
「わかった。では最低四人は下にいるって事だな。すぐに向かう。君は先に町に帰ってなさい」
不安で涙声になりながら少女が訴える。
「みんな無事ですよね!?」
その質問にはっきりとは答える事が出来ないのが辛い。
「善処はする。見つけて必ず連れて帰る」
そうとしか答えられない。
今俺達に出来る事は、一刻も早く落ちてしまった者を助ける事だ。
不安そうに佇む少女を、入り口を警備している者に任せ、俺達はダンジョンの床が消えたという場所へと向かった。
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