第13話◆早朝のお仕事
依頼には時間がきっちりと指定されているものもある。
そういう依頼は、決して遅刻をしてはいけない。時間厳守、人として当たり前である。
しかし、朝が苦手な冒険者も多く、寝坊遅刻がなくなる気配はない。
その寝坊を減らす為、朝の弱い冒険者を伝話で起こすのも、冒険者ギルドの職員の仕事だ。
若くて可愛い職員のおはようコールなら大歓迎だぁ? 残念だったな、今日のおはようコールは俺だよ!!
「おい! 起きろ!! 寝るな!! いいか、絶対寝直すなよ!? 五分後また連絡するからな!!」
仕事はできるが、朝には弱いエリュオンを起こすのは一苦労である。
曰く、モフモフの魔物を一緒に寝ているので、つい気持ちよくて寝直してしまうらしい。それに加え、魔物達のねむいねむい光線が強力過ぎると言っていた。
ねむいねむい光線って何だ!?
まぁ、あのもっふもふの狼は、冬場は気持ちよさそうだな。
大事にならなかったとはいえ、昨夜は強盗騒ぎがあったせいで、役所に連絡したり報告書まで書かないといけなかったりで無駄に忙しかった。事後処理でバタバタしているうちに朝である。
カウンターに忘れて行かれた生首は、先ほど夜勤空けの胴体が引き取って帰った。
うん、朝の冒険者の増える時間までに引き取りに来てくれたよかったよ。昼間の仕事しかしない冒険者はテロスの首芸を知らないからな。
それに朝は、子供の冒険者も仕事を探しにやってくる。その時いきなりカウンターに喋る首がいたら、子供達にトラウマを作ってしまいそうだ。
冒険者ギルドをホラーハウスにしてはいけない。
そして、早朝のこの時間こそが魔の時間帯である。
「風邪ひいて熱がでた? ああ、わかった、ゆっくり休んでくれ」
早朝に風邪を理由に欠勤の連絡をしてきた冒険者との伝話を切り、登録されている冒険者の情報が閲覧できる魔道具を見る。
魔道具に取り付けられている画面には、現在このラウルス支部で稼働している冒険者の情報が映し出されている。
その中から今日まだ仕事が決まっておらず、朝から仕事に出られる者で、欠勤を伝えて来た冒険者の代役が出来そうな者を探す。
突然の体調不良や事故は誰にでも起こりうる。それ以外にも身内の不幸や、やむにやまれぬ急用など、冒険者が突然仕事に来られなくなる事情は多くある。
冒険者ギルドの仕事には、命に関わる危険な仕事もある為、体調不良や怪我などの場合は、無理をせず休むことが推奨されている。
肉体面だけではなく精神面で弱っている時も、判断力に関わってくる為、コンディションが悪ければ、無理をして現場に出ないことを推奨されている。
その為、当日の欠勤連絡はわりと多い。そんな時、速やかに代わりの者を見つけ、依頼に支障が出ないように手配するのも、ギルド職員の仕事だ。
冒険者ギルドの依頼は夜間より昼間の方が多く、朝に始まり夕方に終了する仕事が一番多い。
つまり、当日欠勤の連絡が一番多く来る時間帯が、早朝のこの時間帯なのだ。
もちろん、そういう事案に対応するため、当日欠勤の代理枠としての冒険者が待機している。条件が合えばその中から行ってもらう事になる。
条件に合う者がいなければ、今日の仕事が決まっていない冒険者に片っ端から伝話をする。朝っぱらからの伝話なので、出ない者も多いし出ても寝起きで不機嫌だったり、怒り出したりで断られることも多い。
その為、ギルドのロビーは早朝で閑散としているが、職員はめちゃくちゃ忙しい。
朝に弱い冒険者を起こしながら、欠勤の連絡があれば代わりの人員を探す。今日の依頼に入ってる冒険者が、ちゃんと出発したかの確認も連絡もしなければならない。
今回は条件の厳しい依頼ではなかった為、運よくすぐに代わりの人員が見つかった。
もしこれが見つからなかったどうなるか? ギルドの職員が駆り出されるんだよなぁ!!
登録している冒険者には優しいが、職員には比較的厳しいのが冒険者ギルドである。
おはようコールやら、欠勤者の代役探しやらで忙しい早朝の時間が終われば、次は当日の依頼を受けに来る冒険者の対応だ。
冒険者ギルドの依頼には、あらかじめ日時と募集人数がはっきり決まっていて、前日までに人員を決めて当日は現場に向かうだけになっている依頼以外にも、はっきりとした日時が決まっておらず人員が見つかり次第とか、当日来られる人を募集とか、指定された素材を集めたり魔物を討伐するという、比較的緩めでいつでも受ける事ができるフリー依頼という物がある。
こちらは募集条件があまり厳しくないため、駆け出しの冒険者や、他所から来て路銀稼ぎがしたい者、たまたまその日仕事がない者などが、気軽に受ける事ができる依頼だ。
フリーの依頼はランク別に分けられ、ギルド内のロビーにある掲示板に張り出される。その張り出された紙を取って持って、受付カウンターで受付手続きをすれば依頼を受ける事ができる。
フリー依頼は早い者勝ちの為、依頼の張り出される時間になると、ギルドのロビーは冒険者で溢れ返る。
このフリー依頼、こなせるなら一人で複数受ける事もできる。もちろん欲張って受けすぎて未達成になるとペナルティになるので、依頼を受ける時はよく考えて、自分のこなせる依頼を受けなければならない。
受付の職員の目から見て、これは無理だと思われる依頼は、冒険者が望んでも却下される時がある。
こういう受付方法なので、この時間は一日で最もトラブルの多い時間だ。
この時間の受付は、夜勤者と早朝出勤者が担当しており、夜勤の最後の仕事である。
あー、あっちの方で依頼取り合ってケンカが始まりそうだな。早い者勝ちなので、稼ぎのいい依頼は人気があるため、取り合いがヒートアップしてリアルファイトになる時もある。
もちろん、ギルド内でのケンカや決闘は禁止だし、ペナルティの対象だ。ギルド内でリアルファイトなんか始めたら、素行評価にマイナス評価つけるぞ!!
今にも殴り合いになりそうな冒険者を見ながら咳払いをする。ケンカを始めそうな冒険者達と目があったので、ニッコリと営業スマイルをすると、双方おとなしく引いてくれた。素直で大変よろしい。
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