第7話◆追加のオーダー
集合時間は朝の七時、場所はギルドの前。
時間より少し早めに集合場所に到着して待っていると、オウルベアーの駆逐依頼のメンバーが、パラパラと姿を見せ始めた。
少し離れた場所には、エルダーフロッグの駆除依頼に参加するメンバーも集まっている。
どちらも依頼主が町の役場なので、集合時間と場所が被ったのだ。
あちらはDランクの依頼だが、対象の魔物の数が多い為、冒険者の人数も多い。
エルダーフロッグは大型のカエルの魔物で、その大きさは二メートルを超え、大きい個体だと三メートル近い。
人里に近い場所に棲息する肉食の魔物で、人間や家畜を捕食する為、毎年この時期にカエルになる前のオタマジャクシを駆除して、数を減らしておくのだ。
オタマジャクシのうちならカエルになった後よりは小型で弱いが、それでも肉食である。そして、そのオタマジャクシを餌にしている別の肉食の魔物も出現するので、Dランクの依頼だが油断はできない。
多少の危険はあるのだが参加人数が多く、安全優先で班に分かれて行動する為、毎年この依頼に冒険者になって日が浅い者や、戦闘があまり得意でない者の実戦経験の場になっている。
元凄腕剣士の耳の遠いご老人もこの依頼に参加している。俺のいる場所から少し離れた場所で、花壇の縁に腰を下ろして腰をトントンと叩いているのが見える。だ、大丈夫かな?
一方俺達の方はと言えば、オウルベアーという頭が梟で体が熊に似たBランクの魔物の駆除である。大型な個体で立ち上がれば五メートルを超えるものもいるこの魔物は、暖かくなり始める春先に冬眠から目覚め活動を始める。
日頃は森の奥深くに棲み、人間の生活圏にはあまり出てこないのだが、冬眠明けのこの時期は食欲旺盛で凶暴性も増しており、空腹を満たす為、人の目の付く場所に現れる事も増える。
その為、日頃は低ランクの魔物しかいない森で、ランクの低い冒険者がオウルベアーに遭遇し犠牲になる事や、森に近い集落で人や家畜が襲われる事もある為、オウルベアーが冬眠から目覚めるこの時期に、森の奥から出て来た個体を駆逐するのだ。
俺達の方は冒険者が六人。元は三人だったのが、昨日の昼過ぎに三人追加されたのだ。
他にも人捜ししないといけない依頼が山のようにあったし、諦めてエリュオンとキルキル巻き込んで自分入れて三人で埋めたよね。
元々CからBランクの冒険者を三人の予定だったのだが、昨日になって大型のオウルベアーの目視報告が入った為、追加で依頼が来たのだ。
オウルベアーは大変好戦的で凶暴な魔物の為、油断すると人的被害を出す事になるので、役所の判断は正しい。
今日はこの六人を二つの班に分け、役所から派遣されて来た担当の兵士達と一緒に、オウルベアーの捜索と駆除に当たる事になっている。
班分けは最初から決まっていた三人と、追加で参加する事になった俺達で分かれている。
「いやー、依頼受けてくれてホントに助かったよ。ありがとう」
「休みっても、どうせこいつらの散歩に行くしな」
横の座っている大型の狼の頭を撫でながらエリュオンが言った。その肩には小さな鳥がとまっているが、この鳥が先日エリュオンを背中に乗せて飛んでいた鳥で、今は小さな鳥の姿をしているが、大きさを自在に変える事のできる、ルフと呼ばれる怪鳥である。
「ユーグにはこないだ僕の穴を埋めてもらったしぃ? 休みならまた別の日に貰うよ」
本来休みだった二人に、礼を言う。ホント、この二人がいなかったら埋まらなかった気がする。
キルキルは休みの日は家でリゼとイチャイチャしていそうだから、文句を言われるかと思っていたから意外だ。
「うわ、そっちの班戦力過剰じゃん?」
声を掛けてきたのは、元々この依頼に入っていた冒険者の剣士。
「火力はあるが防御面が少し不安だけどな」
俺もエリュオンもキルキルも火力はあっても防御はペラペラなので、魔物に執拗に狙われると何もできなくなる。
「この中だとユーグが一番タフそうだねー」
「何かあったらユーグがタンク役だな。よろしく頼むぞ」
エリュオンとキルキルがさらっと酷い事を言う。やめろ、俺を盾にするな。
「そっちの班の誰かと俺が交代するのも悪くないな?」
先に決まっていた三人は筋肉質なメンバーなので、こちらの班と一人入れ替えるとバランスが良くなりそうだな!?
「え? やだよ、ペット付きで遠距離高火力の中で近接戦闘はつらいな? そっちは俺よりユーグの方がいいと思うぞ」
くっ……断られた。確かに、エリュオンは魔物を使った戦闘スタイルだし、キルキルは遠距離からの魔法と弓がメインの為、この中で近接が戦うには息が合っていないと無理だ。
俺は体術と剣術メインだが、いざとなったら魔砲をぶっぱがあるからな。
やっぱ、班分けはこのままか。防御面に不安があるが、仕方ない、このままがんばるか。
話をしているうちに、役所からの担当者がやって来て合流。
騎獣に乗って、目的地の森へと出発。サクッと終わって帰って来られるといいなあ!!
人里近くまで来ていたオウルベアーの駆除は、サクッと終わったよ。
ちょーっと、やばいサイズのオウルベアーは出て来たけれど、囲んでフルボッコだった。
冒険者だけで六人、役所から派遣されてきた兵士を入れると総勢十人。エリュオンのペットと精霊もいるし、キルキルもキルキルで精霊を呼べるし、酷い数の暴力だった。
一匹だけ平均的サイズよりかなり大型の個体が混ざっていたが、数の暴力の前には無力であった。
おそらくこれが報告にあった個体だろう。戦った感じAランクに近い強さだったので、人員を追加していなかったら苦戦していたかもしれない。
まぁ、無事にオウルベアーの駆除作業も予定時間内に終わった。
ギルドに戻り次第、オウルベアーを解体に出して素材の分配手続きと、今日の報告書を作れば一段落だ。
現場に入る為、明日の人員の手配を同僚に任せた分が終わっていなければ、それもやらなければならないな。
それでも、そのくらいなら少し残業したら終わるかな?
なんて思っていたら、俺の冒険者カードから呼び出し音が聞こえた。
ギルドからの連絡である。帰り道にギルドから突然連絡なんて、嫌な予感しかしない。
「ユーグランスだ、どうした? ああ、帰還中で間もなくラウルスに到着するぞ。は? ヒドラ? わかった、このまま向かう」
通信を切って、ため息を吐きたいところだが、事は一刻を争う。
「ヒドラとか聞こえたけど何かあったのか?」
自前の狼の魔物に跨がり隣を走っていたエリュオンが眉をひそめた。
「ああ、エルダーフロッグの駆除中にヒドラが出たらしい。俺はそっちに行く事になった。エリュオンとキルキルはもう一働きできるか?」
「ああ、行ける」
「ヒドラかー、強そうだね。いいよ、一緒に行くよ」
「疲れてるとこ申し訳ないが、もう一働き頼む」
頼りになる面子にばかりすがるのは申し訳ないのだが、ヒドラはBランクの中でも厄介な部類の魔物の為、それなりの戦力が必要になる。
他の冒険者と役所の兵士には先にギルドに戻ってもらい、俺達はもう一仕事する為に、エルダーフロッグの駆除が行われている現場へと進路を変えた。
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