第4話◆護衛のお仕事
依頼主は大手の商会で、馬車にはその商会の副会頭も乗っている。
一般の護衛風に変装はしているが、持っている武器がどう見てもどこかの貴族の騎士風である。おそらく輸送先の屋敷の貴族が派遣した騎士だろう。御者もガッチリとした体格で、よく見ると外套の下に鎖帷子が見えるので、おそらくただの御者ではないと思われる。
あまりの警護の厚さに、かなり高価な物の運搬だと予想されるが、違法ではない限り深く追及しないのが冒険者としてのマナーである。
その地域を収めている領主にもよるが、大きな町と町を繋ぐ街道は物流の要になる為、整備されており比較的安全だ。
安全だと言っても魔物は出没する事もあるし、地形によっては野盗に襲われやすい場所もある。
その為、自衛能力がない者が町と町の間を移動する時は、護衛を雇うか護衛付きの乗合馬車を利用するのが一般的だ。
今回は騎士風の護衛が依頼主の馬車の周りをガッツリと固めているので、冒険者の俺とエリュオンの主な相手は、馬車に近寄ってくる魔物だ。
エリュオンは使役している鳥の魔物に乗って、上空から広範囲に索敵をしている。俺は馬車のやや後方から周囲を警戒している。そして、馬車の前方にはエリュオンの使役する、大きな狼の魔物が走っている。ほとんどの魔物はその狼の魔物を恐れて馬車には寄ってこない。
これ、俺いらないんじゃねーの?
なんて思うのだが、高級品の輸送の護衛の際は、お互いの見張りを兼ねて二人以上で依頼を受ける事になっている。
「ユーグ、この先の小高い丘の上に武装した人間がいる。おそらく、賊の類だ。落石に注意しろ」
町を出て日が昇り周囲は明るくなり、何事もなく平和に進んでいたのが、街道が樹木が多く高低差のある場所に差し掛かった時、上空のエリュオンが風の精霊を使って話しかけてきた。
鳥の姿をした小さな風の精霊が、俺の肩にとまり、エリュオンの声を届けて来たので、俺はそれに応える。
「了解。積み荷狙いなら馬車に落とさず、前方を塞ぐはずだ、狼はどうする?」
「気付いてないふりをするならそのまま行かせて、崖の上に回り込ませる」
「わかった、そうしてくれ。落石は俺がなんとかする」
エリュオンと簡単な打ち合わせをして、近くに賊がいる事を護衛と依頼主に伝える。
積み荷が目的なら馬車に直接岩は落としてこないはずだ。すぐ前方に岩を落とし、混乱している間に奇襲。野盗がよく使う手段だ。
この辺りは治安がいい為、野盗が出る事はあまりないのだが、高額品の運送の情報が漏れ、運送中に襲撃されるという事は少なくない。
いくら治安が良くても欲に目が眩む輩はいなくならないし、それを糧にしている破落戸はその機会を逃そうとはしない。
不自然にならないようにジワジワと崖から距離を取り、護衛達が落石に巻き込まれない位置を確保する。
街道が崖を回り込むようになっている場所でおそらく襲撃が来ると思われる。
崖が大きく出張っている場所が近づくと、風の精霊を通してエリュオンの声が聞こえてきた。
「動いたぞ」
護衛達に目で合図を送り、自分は落石に備え魔法を用意する。
直後、パラパラと馬車の前に小石が落ちて来て、その更に上から大きな岩が転がって来るのが見えた。
「止まれ!!」
俺が言うと、止まったのは馬車ではなく落ちてくる岩。
日中、日の当たる場所では必ず影ができる。俺は闇の魔法で岩の影の動きを止めた。昨夜、酔っ払いの動きを止めたのと同じ魔法だ。
転がって来ている岩が崖の途中で止まるのが見え、すぐに収納用の魔道具から武器を取り出した。
長細い筒状の武器――魔砲という攻撃魔法が苦手な者の為の武器で、自分の魔力を弾丸に変えて打ち出す事ができる魔道具だ。その威力は使う者の魔力と魔砲の性能で大きく変わる。
俺の魔砲は長さニメートル程で、太さは俺の腕より太い大型の物だ。
魔砲に魔力を込めて、崖の途中で止まっている岩に向けて撃ち込んだ。
魔力の消費が大きく燃費は悪く小回りは利かないが、攻撃範囲は広く破壊力も高い。魔力に対する対抗力がほとんどない岩など、簡単に粉砕する事ができる。
俺の打ち出した魔力の弾は、崖の途中で止まっている岩に当たり纏めて吹き飛ばした。その際、崖の一部も巻き込み小規模な崖崩れが起こったが、岩が落ちてくるよりマシだ。
崖の上を見ると、奇襲をかけようとしていた賊達が、崖際で弓を構えているのが見えた。落とした岩が粉砕されて戸惑っているのか、弓を構えているが放つ様子はない。
その足元に向け、もう一発魔砲で魔力の弾を撃ち込んだ。賊がいる崖が崩れて、砕けた岩の破片と一緒に賊が崖から滑り落ちて来た。
崖の上にまだ賊が残っているのが見えたが、その背後にヌッと大きな狼が姿を現したので、崖の上の始末はすぐに終わるだろう。
岩を止める為に魔法を使い、燃費の悪い魔砲を二発も撃ったので、魔力をごっそりと持って行かれ、激しい倦怠感に襲われる。
魔砲を収納用の魔道具にしまい、代わりに魔力回復用のポーションを飲んだ。
「上、おっけー」
俺の肩に乗っている風の精霊からエリュオンの声が聞こえてきた。
前方を見ると、崖から転がり落ちてきた賊を、騎士風の護衛が縛り上げているのが見えた。
賊の後始末は護衛に任せていいかなぁ。この後、町に連れて行って厳しい尋問が行われる事だろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます