第6話 夢現が糾える世界

「ここは不思議なものが見えたり、不思議なことが起こったりする場所ですね。でも、不思議の国ではないですよね、まさか…。」

「ほほう、例えば、どんなものを見ましたか?」

「このお屋敷の入り口で、何もしていないのに扉が開いたわ。でも中には誰もいなかったけど…。」

「それは自動開閉装置のことでしょうな。」

「自動開閉装置ですって?」

「そうです。この城へ尋ねてきた人を声やその姿で判断し、不審な者でなければ扉を開放する装置です。」

「まぁ!それなら私の声や姿を、何処で誰が確かめたというのかしら?」

「向かいの部屋に、この屋敷の中央と西側を管理している者が四人いまして、交代で望遠鏡とパイプフォンを使って常に監視しています。」

「望遠鏡ですって?そこから外が見えるのかしら?」

「部屋からは見えませんが、最上階の展望台に続く階段と通路を使って行くことが出来ますので。」

「じゃあ、パイプフォンていうのは何かしら?」

「この城の主要な場所には、あの部屋からパイプが伸びていて、まるで網の目のように張り巡らされているんですよ。そこからの音もパイプを通って監視人の部屋に届くようになっているんです。ここでこうやってしゃべっていることも、実は向かいの部屋には筒抜けと言うわけです。パイプだけに…。」

「あら、ここも監視されているのですか?」

「ええ。何しろ、この城の守衛がいる部屋ですから。何かあったら、城じゅうの者が警戒態勢に入ります。少なくとも百名ほどの看守がこの部屋の外に来るはずです。」

「百名ですって?私がここに来るまで、そんなに人がいるような気配はなかったけれど。」

「はぁ、そうでしたか。みな、厳しい訓練を受けてきた者たちなので、気配を消して物陰に潜むことも、さほど難しいことではないでしょう。恐らく、柱の陰や通路の曲がり角などの死角に潜んで様子を窺っていたはずです。」

「わかったわ。そして、あなたが給仕ではなく守衛の長ということでいいのかしら?」

「はい。まぁ、そういうことになりますが、正確には守衛兼給仕というところでしょうか。」


 ただの給仕だと思っていた人物が、実は守衛の長であったことをクリスはとても意外に思いました。どう見たって、この、なで肩で痩せ気味の男性が守衛の長には見えません。守衛という言葉が持つ筋骨隆々で、いかにも強そうなイメージとのギャップが大きかったからでしょうか。


(第7話に続く)

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眠れる森の人 私之若夜 @shino-waka

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