第3話 二階へ

 城の中に入ると、そこは玄関広間になっていました。

「こんにちは。どなたかいらっしゃいますか。」

 クリスは、誰かいるような気配を感じていましたので、思い切って大きな声で言ってみました。するとどうでしょう。返事が返ってくる代わりに、階段の横壁や広間の壁際にあるサイドテーブルの燭台に一斉に灯がともりました。そして、昼間のはずの外の明かりが、火を消したように一気に夜の闇へと変わってしまったのです。奥の方にある大きな窓には赤みを帯びた満月が森の木々の上にぽっかり浮かんでいるのが映っていますし、他の窓をぐるっと見回して見ても、外には見事な星空が見えるばかりです。

「いつの間に日が暮れてしまったのかしら。あとでママやマリーに大目玉だわ。もう、ここまで来たら叱られるのは一緒ね。思う存分探検することにしよう。」

 そう心で呟いて、いたずらっ子のように舌をペロッと出して見せました。

 広間の照明はついていませんでしたが、たくさんある燭台の明かりで、足下は見えるので歩くのには問題なさそうです。明かりは階段の両脇に、二階に向かって続いています。クリスは、それに従って二階へ上がっていきました。階段を踏み外さないように足下に気をつけながら―。

 長い階段を上がりきると通路が左右に伸びていました。でも明かりがともっているほうは左側だけです。右側は真っ暗で、先がよく見えません。

「暗い方へは、行かない方がいいかしらね。」

 クリスは、明かりに従って廊下を進みました。ますます、誰かいる気配は強くなってきました。よく見ると、ずっと奥の方に見える突き当たりの部屋の扉が半開きになって、中から煌々と光が漏れています。まるで「こっちへおいで」とでも言っているかのようです。そして、その明かりに誘われるように、そのまま真っ直ぐに歩いて行きました。それにしても、さすがにお城と言うだけあって広い建物です。どれだけ歩いたことでしょう。あんなに小さく見えていた扉でしたが、その前に立った時にはクリスの背丈の倍は余裕であるような高さの、それは、それは大きな扉だったのです。

(第4話に続く)

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