第2話 お城の中へ

「近くに見えたんだけど、結構歩いたな。でも、あとちょっとだ。」

 切り株に座って見た時には、それほど離れた場所には感じられなかったものの、実際に歩いてみたら結構な距離があったので、お城の門の前に着いた時には足が棒のようになっていました。そうです。思った通りで、やはり建物はお城でした。それでも、この城に興味を持ったクリスは決してへこたれませんでした。それどころか、ワクワクが心の底からこみ上げてきて、自分が歩き疲れていることさえも忘れてしまうほどの元気さです。

 門には鍵も錠もかかっていませんでしたが、長い間、開閉していなかったのでしょうか、動きが渋く、キキキッという耳障りな音がします。それでも、クリスの力でもなんとか開くことが出来ました。中を見回すと、お城の庭は手入れこそされていないようでしたが、不思議と荒れすさんでいる様子はなく、クリスにはそれがまるで眠っているかのように感じられました。庭園に続くバラのアーチは、形を崩さずにしっかりとそこに立っています。入り口が真ん前に見えていましたから、庭園には行かずに、そのまま真っ直ぐ、白い大理石の石畳の上を進んでいきました。まるで、何かに導かれているかのように。

 入り口の扉を開けようと手を触れたその瞬間、何故か扉はひとりでにカチッと開きました。なんとも不気味なことでしたが、クリスにとってみればもう、そんなことはどうでもよくなっていました。まるで何かに吸い寄せられるように、その雰囲気に完全に流されていたのです。もう胸のドキドキ感と心の底から湧き上がってくる期待感は高まるばかりです。そして、とにかく先へ進まなければという焦燥感にも似た感情に、クリスの心はいつの間にか支配されていました。

 多少の不安はあったものの、クリスは顔の角度を左右に変えながら、扉の隙間から中を覗き込むようにして様子をうかがいました。


 外は日が高くなってきたばかりで、昼食までにはまだまだ時間に余裕がありそうです。クリスは、一度大きく息をして呼吸を整えると、ゆっくり中のほうへと足を踏み入れました。その時、なぜかマリーの顔が心に浮かびました。そして、

「あまり心配かけちゃまずいかな。できるだけ早めに帰るようにしよう。」

などと、いつもは思わないようなことを心で呟くのでした。

(第3話に続く)

 

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