ランクは、F~SSランクまである。

 主にSランク以上の者には、国家の機密情報などの一部の権限が与えられ、資料の閲覧や資金が与えられる。

 その中でも、SSランクは、ギルド長、および国の上層部に与えられ、Sランク以上の権限が与えられる。

 ロイは、再少年にして、国のSランクの錬金術師になった実力を持っている。

 十歳にしてSランクを取得し、現在十七歳である。

「他に、その魔術師についての資料はないんですか?」

「そうだな。実際にあった方が話が早いが…。赤髪に、君と同じくらいの歳だったな……。後は…」

「ギルド長、そいつは今どこにいるんですか?」

 ロイは、立ち上がる。

「あ、ああ…。西の都〈シャハルタ〉よりも西にあるルーニアという街だが…まさか…君も行くつもりじゃないよな?」

「はい、そのつもりですけど…。俺の目的が一つでも掛けたりしたら、目的が果たせませんから……」

 ロイは、荷物を持って、部屋を出ようとする。

「待ちたまえ。今からでは、ルーニアまで三日かかるんだぞ。それに『彼女』は、三日前にここを出たのだぞ! って、行ってしまったか……」

 トーマスが忠告するが、ロイは、部屋を飛び出してしまった。

「まあ、いい…。彼女に会えば、彼も何かしら得て帰ってきてくれるだろう」

 コーヒーを飲みながら、一点だけ、トーマスが見落としていた部分があった。

「やばい…。あいつ、西のあの男と喧嘩になったりしないだろうな? だとすると…連絡だけはしておいた方がいいな」

 すぐさまトーマスは動き出す。

 自分の席に置いてある電話の受話器を取り、ダイヤルを回す。

 ジリジリ、と音が鳴り、相手が出るのを待つ。

「あーもしもし、私だが…。西のギルド長に連絡しておいてくれ。〈義眼の錬金術師〉ロイ・アーノルドがルーニアに向かった。と…」

 トーマスは、そう言い残し、電話を切った。

(それにしても、改めて見ると、複雑な構造をしているんだよな…)

 トーマスは、テーブルに置かれた資料を手に取り、書かれた文章と魔法陣を見る。

(私にも分からないってことは、彼女の得た情報によっては、あるいは…)

 トーマスは、窓の外を見た。


 ロイはギルドを出た後、オーマンの中央駅から発車する西の都〈シャハタル〉行きの列車に乗車していた。

『まもなく、一番乗り場から〈シャハタル〉行きの列車が発車します。お乗りのお客様は、お急ぎください』

 と、駅の場内のスピーカーからアナウンスが流れる。

 列車内には、西に向かう乗客が多く乗っている。

(ルーニアまで三日か…。くそっ、列車の技術さえ上がっていれば…。俺の計算では、二日で着くのに‼)

 ロイは、駅の近くで買ったサンドイッチを食べながら考え込む。

 すると、車掌が近くを通りながら切符を拝見している。

「あの、切符を見せてもらってもいいですか?」

 車掌が、ロイに聞いた。

「あいよ」

 ロイは、食べながらポケットに入れていた切符を見せる。

「ありがとうございます」

 そう言い残して、次の人へと行ってしまった。

 発車の合図が鳴り、列車は、シャハタルに向けて走り始めた。


   ×   ×   ×


 西の都〈シャハタル〉から西の位置にある小さな街、ルーニア。

 小さな街であるが、農業、酪農、畜産が盛んで、列車からは、それがわかる農家の家が、いくつも見える。

 少女は、とある店で昼食を取るところだった。

 店内は、おしゃれなカフェであり、ラジオが常に流れている。

 少女は、トーストの上に載せられたマーガリンのものと、コーヒー牛乳を頼んだ。

「あ、すみません。コーヒーには、砂糖をお願いします」

 少女は、店のマスターに頼む。

「お嬢ちゃんは、この街に観光に来たのかい?」

 店のマスターであるおじさんは、少女に質問する。

「そうですね。観光といえば、観光ですかね…」

 少女はそう答えた。

「ここは近くのシャハタルとは違って、農業、酪農、畜産しかないからね。若い女の子が来るのは、珍しいのだよ。でも、どうして観光に?」

「まあ、ここにしかないものと言いますか…。そういったものを見たくて…」

 少女は、自分の目的を誤魔化す様にはっきりと言わない。

 マスターは、少女が頼んだトーストとコーヒー牛乳をカウンターに出す。

「ふーん。でも、ここには何も…いや、一つだけあるか…変な遺跡が…」

「どんな遺跡ですか?」

「いやー、おじさんにもよくわからないんだが…これがさっぱり…誰も近寄りはしないよ。そんな不気味が悪いところには…」

 マスターは、お客が使った皿を洗い出す。

「そうですか……」

 少女は、ナイフとフォークを扱いながらトーストを切り、口の中に入れる。

 トーストとマーガリンの絶妙な味が、丁度いい。

 コーヒー牛乳を飲み、耳をラジオに傾ける。

 ラジオでは、シャハタルからの情報だけが流れており、中央都市〈オーマン〉の情報は流れてこない。

(どうやら、その遺跡こそが、今回の目的地のようですね…)

 少女は、トーストを食べ終わり、コーヒー牛乳を飲み干す。

 そして、紙で口をしっかりと拭き、隣に立てかけておいた杖を持つと、ゆっくりと立ち上がった。

「マスター、ご馳走様でした。ここにお金を置いておきますね」

 少女は、カウンターにお金を置いた。

「お嬢ちゃん、暇になったら、また、おいで…」

「ええ、暇になったら、また、来ます」

 少女はそう言い残して、店を出た。

 少女はフードをかぶり、ルーニアの街を歩く。

 列車での乗り換えの時に寄った、シャハタルの街よりも人通りが少ない。

 少女の目的は、遺跡の調査である。

「はぁ…どうやら、遠回りになるのかもしれないですね」

 少女は、後ろの方をちらっ、と見た。

 この街に着いてから、何者かにずっと尾行されている。

(二人…いや、四人ですか……。ここでやりあうとしたら、人に迷惑がかかるかもしれませんね……)

 少女は、次の角を左に曲がると、姿を隠す。

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