Ⅱ
ランクは、F~SSランクまである。
主にSランク以上の者には、国家の機密情報などの一部の権限が与えられ、資料の閲覧や資金が与えられる。
その中でも、SSランクは、ギルド長、および国の上層部に与えられ、Sランク以上の権限が与えられる。
ロイは、再少年にして、国のSランクの錬金術師になった実力を持っている。
十歳にしてSランクを取得し、現在十七歳である。
「他に、その魔術師についての資料はないんですか?」
「そうだな。実際にあった方が話が早いが…。赤髪に、君と同じくらいの歳だったな……。後は…」
「ギルド長、そいつは今どこにいるんですか?」
ロイは、立ち上がる。
「あ、ああ…。西の都〈シャハルタ〉よりも西にあるルーニアという街だが…まさか…君も行くつもりじゃないよな?」
「はい、そのつもりですけど…。俺の目的が一つでも掛けたりしたら、目的が果たせませんから……」
ロイは、荷物を持って、部屋を出ようとする。
「待ちたまえ。今からでは、ルーニアまで三日かかるんだぞ。それに『彼女』は、三日前にここを出たのだぞ! って、行ってしまったか……」
トーマスが忠告するが、ロイは、部屋を飛び出してしまった。
「まあ、いい…。彼女に会えば、彼も何かしら得て帰ってきてくれるだろう」
コーヒーを飲みながら、一点だけ、トーマスが見落としていた部分があった。
「やばい…。あいつ、西のあの男と喧嘩になったりしないだろうな? だとすると…連絡だけはしておいた方がいいな」
すぐさまトーマスは動き出す。
自分の席に置いてある電話の受話器を取り、ダイヤルを回す。
ジリジリ、と音が鳴り、相手が出るのを待つ。
「あーもしもし、私だが…。西のギルド長に連絡しておいてくれ。〈義眼の錬金術師〉ロイ・アーノルドがルーニアに向かった。と…」
トーマスは、そう言い残し、電話を切った。
(それにしても、改めて見ると、複雑な構造をしているんだよな…)
トーマスは、テーブルに置かれた資料を手に取り、書かれた文章と魔法陣を見る。
(私にも分からないってことは、彼女の得た情報によっては、あるいは…)
トーマスは、窓の外を見た。
ロイはギルドを出た後、オーマンの中央駅から発車する西の都〈シャハタル〉行きの列車に乗車していた。
『まもなく、一番乗り場から〈シャハタル〉行きの列車が発車します。お乗りのお客様は、お急ぎください』
と、駅の場内のスピーカーからアナウンスが流れる。
列車内には、西に向かう乗客が多く乗っている。
(ルーニアまで三日か…。くそっ、列車の技術さえ上がっていれば…。俺の計算では、二日で着くのに‼)
ロイは、駅の近くで買ったサンドイッチを食べながら考え込む。
すると、車掌が近くを通りながら切符を拝見している。
「あの、切符を見せてもらってもいいですか?」
車掌が、ロイに聞いた。
「あいよ」
ロイは、食べながらポケットに入れていた切符を見せる。
「ありがとうございます」
そう言い残して、次の人へと行ってしまった。
発車の合図が鳴り、列車は、シャハタルに向けて走り始めた。
× × ×
西の都〈シャハタル〉から西の位置にある小さな街、ルーニア。
小さな街であるが、農業、酪農、畜産が盛んで、列車からは、それがわかる農家の家が、いくつも見える。
少女は、とある店で昼食を取るところだった。
店内は、おしゃれなカフェであり、ラジオが常に流れている。
少女は、トーストの上に載せられたマーガリンのものと、コーヒー牛乳を頼んだ。
「あ、すみません。コーヒーには、砂糖をお願いします」
少女は、店のマスターに頼む。
「お嬢ちゃんは、この街に観光に来たのかい?」
店のマスターであるおじさんは、少女に質問する。
「そうですね。観光といえば、観光ですかね…」
少女はそう答えた。
「ここは近くのシャハタルとは違って、農業、酪農、畜産しかないからね。若い女の子が来るのは、珍しいのだよ。でも、どうして観光に?」
「まあ、ここにしかないものと言いますか…。そういったものを見たくて…」
少女は、自分の目的を誤魔化す様にはっきりと言わない。
マスターは、少女が頼んだトーストとコーヒー牛乳をカウンターに出す。
「ふーん。でも、ここには何も…いや、一つだけあるか…変な遺跡が…」
「どんな遺跡ですか?」
「いやー、おじさんにもよくわからないんだが…これがさっぱり…誰も近寄りはしないよ。そんな不気味が悪いところには…」
マスターは、お客が使った皿を洗い出す。
「そうですか……」
少女は、ナイフとフォークを扱いながらトーストを切り、口の中に入れる。
トーストとマーガリンの絶妙な味が、丁度いい。
コーヒー牛乳を飲み、耳をラジオに傾ける。
ラジオでは、シャハタルからの情報だけが流れており、中央都市〈オーマン〉の情報は流れてこない。
(どうやら、その遺跡こそが、今回の目的地のようですね…)
少女は、トーストを食べ終わり、コーヒー牛乳を飲み干す。
そして、紙で口をしっかりと拭き、隣に立てかけておいた杖を持つと、ゆっくりと立ち上がった。
「マスター、ご馳走様でした。ここにお金を置いておきますね」
少女は、カウンターにお金を置いた。
「お嬢ちゃん、暇になったら、また、おいで…」
「ええ、暇になったら、また、来ます」
少女はそう言い残して、店を出た。
少女はフードをかぶり、ルーニアの街を歩く。
列車での乗り換えの時に寄った、シャハタルの街よりも人通りが少ない。
少女の目的は、遺跡の調査である。
「はぁ…どうやら、遠回りになるのかもしれないですね」
少女は、後ろの方をちらっ、と見た。
この街に着いてから、何者かにずっと尾行されている。
(二人…いや、四人ですか……。ここでやりあうとしたら、人に迷惑がかかるかもしれませんね……)
少女は、次の角を左に曲がると、姿を隠す。
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