郷土について

いつか都会に行きたいという人は多いし、僕が住んでいる町からも都会に出ていった人はいる。

僕の町は、田舎という訳ではないが、都会という訳でもない。

町の歯医者さん、白瀬先生は都会に出たことがあるのだろうか。


「先生は都会で暮らしたことはあるの?」


先生は遠い目をした。


「若いころは都会で働いていたよ。なかなかに都会というのは大変だね」


先生のクリニックは僕が物心ついたときからあるので、とても意外だった。


「都会に行くと何か変わるの?」


先生が優しい顔になる。


「故郷の良さが見えてくるんだよ。町を離れるということは、その町がどういう町だったのかを知る良い機会なんだ」


今日の先生は奥が深い。


「この町にも良さがあるの?」


先生が僕の頭に手をのせる。


「泡風呂がね、とても安いんだ」


この手を振り払えないものだろうか。



~郷土の魅力が知りたいのなら、一度でいいから郷土を離れるべきだ~

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る