第11話 渦 〚 一回 5,000円〛
それは、ハクセキレイという美しい鳥だった。
餌と思って咥えたのか、それとも――
「あれの後を追いかける」
「えっ」
驚く二人を置いて、俺は形代を咥えた鳥を自転車で追いかけた。
ゆっくりと道に沿ってカーブしたり、まるで俺を誘導しているかのような飛び方をする。
「先輩っ」「あほかー鳥追いかけるとか!」
二人の息切れが聞こえなくなった頃、ハクセキレイがある寺院の敷地内に形代を落とした。
俺はそこがパワースポットであることに気が付く。
″縁切り″や″恨みを晴らす″ で有名な寺院だが、元々は商売繁盛や悪縁切りのご利益がある場所だ。
形代が落とされたのは、駐車場に植えられた木の下。
不自然な土の盛り上がりが出来ていた。
……多分、ここに埋めてあるはず。
数十センチほど砂利と土を掘るとペットボトルが出てきた。
取り出すと、その中に古い十円玉と髪の毛が入っていた。
――恐らく、これは長野朝美の髪の毛だ。
とても邪悪な気を発していた。
祈祷ができないから、完全な祓いは出来ないが……。
「
言霊の力を信じて、この呪文を十回声に出して唱えた。
ブツから随分と邪悪な気が減ったと思った時、堀から電話がかかってきた。
《千尋! お前、いま、どこにいるんだよ?》
「寺院」
《どこの?!》
「山城いる?」
《かぁっ!シカトかよー。ほら、山城、千尋が代われってよ》
呪い返しではなく、完全に祓う為には祈祷が必要だ。
長野朝美本人が受けた方がいいのは間違いないけど、重症で入院してるなら無理だ。
《先輩、お寺で何してるんですか?》
スマホから緊張した山城の声が聞こえた。
「長野朝美の呪われた髪の毛を見つけた」
彼女に前世の記憶があれば、二人協力して祓いも出来たかもしれない。
《えっ、まさか藁人形?!》
「似たようなもんだ。これを完全に祓いたい、それで」
君の家にお願いできないかと頼むと、山城が返事を渋った。
《私の父は神職ですが、霊能もありませんし霊媒もできません。形だけなんです》
これが彼女の渋った理由だった。
驚いた。
自分の家のことなのに、まるっきり“神道” というのがわかっていなかったから。
神道による祓いの所作は、自然が持つ力を借りて行なうことだ。また祓いは、神主が神に「お願いしている」に過ぎない。
これを短時間でわかってもらうには限界があり、俺は、
「儀式をすることが仕事で、「形だけ」ではなく「形」が必須なんだ」
そう言って再度頼んだ。
ただ、神主の娘だからといって簡単にいかないことはわかっていた。
たとえば、祈祷の際には神社でも使う大きな和ロウソクを使用する。これは概ね1本五千円ほどする。
祈祷中、灯明は絶対に消してはならないし、祭壇に一対に二本を灯しても、一日かかれば八本は消費することになる。
俺にはそんなお金はない。
山城の熱意と神主の善意に頼らざるをえなかったからだ。
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