第8話 渦 〚イイネ〛
* * *
堀が持っていたインスタの写真には、確かに心霊が写り込んでいた。
それも、タチの悪い生き霊だ。
長野朝美という女子生徒の投稿に悪質なコメントを残していたユーザーの一人だと見られる。
俺は、父の安倍晴明みたいな占術は持ってないから占いはしない。
それでも霊視さえすれば、鏡に見えた生き霊を飛ばした人物も特定できたかもしれないが、SNSでの発信で自分の存在をアピールする顕示欲の強い人間を、心のどこかで軽蔑しているところもあった。
インスタは、ルックスが良ければ良いほど、お洒落であればあるほど、イイネやフォロワーが増える傾向にある。
裏を返せば、そうでない人間から妬まれることもあるということ。
故にネットという海に、情報という名の意識やエネルギーが邪念で嫉妬や恨みに変わって飛ばされる。
それも膨大に、広範囲に。
それをどうにかするなんて、俺には無理だ。
今の時代は情報が行き交い過ぎて何が真実かは分からない。
インフルエンサーと呼ばれる人間も、己の発言に責任を持って発信してる者は少ない。
それでも、皆、言葉を待っている。
誰かが導いてくれると、救ってくれると思っている。
かの時代も、民も貴族も、天皇でさえ、神の代わりにと、巫女や陰陽師の助言を欲しがった。
それもそのはず。
平安時代は、平安という言葉とは裏腹に迷信が支配した闇の時代だったからだ。
疫病の大流行などは怨霊や悪霊の祟りであり、奇怪な自然現象は、物の怪などが起こす仕業であると信じられるようになっていった。
――陰陽師の存在が、必要不可欠となって当然の時代だった。
平安と令和。
まるで違う世界で、しかし同じようなものに苦しめられる人間がいる。
陰陽師として不十分な俺にできることはあるのか。
たとえ力があっても、差し出がましいことはしないに越したことはない。
けれど。
悩んでる内に事態は急変した。
「朝美が飛び降り自殺図ったって」
堀が神妙な面持ちで俺にそう言ったのは、相談を持ちかけられてから数日後のことだった。
「知ってる。担任が言ってた。二年の女子がマンションのベランダから落ちた、と」
なので、取材関係者が学校周辺をうろついてるかもしれないけど、
「何も答えるな」
「調べても学校内でのイジメはなかったから余計なことはSNSで発信するな」
と帰りのホームルームで説明と釘さしがあった。
期末試験期間だというのに、学校内は騒然としていた。
「命は助かったけど重症らしい。それでもお前は何も感じないのかよ」
帰ろうとする俺の肩を堀が掴んで、非難の目をぶつけてくる。
「何も感じないことはない」
心が痛まないことはない。
やけに熱い堀の手を払いのけ、不意に外に視線を向ける。
やはり、玄関の先にはテレビ局や新聞社の人間だと思われる大人達が待ち伏せていた。
「ね。君、二年生の長野さんと仲良い?」
それにやすやすと捕まっているのは、山城だった。
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