第5章 こうして、山下翔也の一学期が過ぎていく
Ⅰ
「う、うわぁ……」
小さなうめき声を掻き消すように、ブーンと、扇風機が音を立てて勢いよく回っていた。
その扇風機の威力を夏海がボタンで設定を変えた。
「お兄ちゃん、暑いよ。暑すぎるよ……」
日に焼け、色褪せた漫画本をそっとテーブルに置く夏海。
「お兄ちゃん、高校総体が終わったのは分かったけど、その後のこの暑さはないわ。……本当にないわ」
「うるせ、お前が高校総体の事を語ってんじゃ、ねぇーよ。まぁ、九州大会に行けなかったけどな……」
夏海に思いっきり暑い、暑いと連呼された翔也は、五月の終わりから六月初めごろに行われた高校総体の事を思い出していた。
「九州大会って、お兄ちゃん、Ⅾブロックのベスト4だからね。全然惜しくないからね。惜しいというのは、決勝で負けた人のことを言いうからね」
最後に余計な一言を付け加えて、夏海は再び、テーブルに置いていた漫画本に手を伸ばすと、続きを読み始める。
最新刊の続きが気になるという感じである。
小学生の頃は、六月の終わりはここまで暑くなかったであるのだが、地球温暖化のせいか、南極の氷も融け、都会の街も気温が上昇し、この街もここ数年で一、二度は上昇した感じがする。
今、夏海が読んでいるのは翔也が貸している少年向けの漫画。ジャンルはラブコメである。
翔也の通っていた、そして、現在夏海が通っている中学校は、夏の中体連真っ盛りである。部活に入っていない夏海は、昼間っから、漫画読み放題である。
うんうん唸って、手が止まり始めた夏海を眺めながら、翔也はキンキンに冷えた麦茶を飲んだ。この麦茶は、近くの税込価格のお安いドラックストアで買った麦茶パックであり、これを翔也は好んで飲んでいる。
(うん、この麦茶がまたいい味を出している)
イヤホンで、最新曲が出た声優の歌を聴きながら、呑気にソファーで横になる。
(これが一番の快感だな……)
翔也は、漫画を読む夏海を再び見る。
「どうだ? 今回の話は意外といい感じだろ?」
「うん。そうだね……」
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