Ⅴ
「あ、ああ……」
唯は、翔也の武者震いを見て言った。
階段を上った先には神社の境内が見える。
地面は小石がぎっしりと埋まっており、大きな本堂がすぐ目の前に見える。
近くには、神社でよく見るきれいな水で手を清める場所があり、四人はそこでしっかりと手を清める。
神社の本堂に入り、順番が来るまで話をしながら待つ。
「それにしても久しぶりにここに来たな。達巳、お前は、毎年行っているんだっけ?」
「ん? ああ……。家族と毎年、初詣に行っているよ」
翔也の問いに達巳がそう答えると、唯が少し驚いた顔をする。
「へぇー、あなたって意外と神頼みするものなのね。私はてっきり、そういう事には興味ないかと思っていたわ」
「そうか? 下の奴がいる兄弟は、嫌でも連れてこられるんだよ。こっちとしては、もう、慣れてしまったけどな」
「そう、面倒見がいいのね」
「まぁーね」
唯は呆れた表情をしながらも感心していた。
「そういえば、二葉と山下君って、一緒にここに来たことあるの?」
「えっ?」
突然、唯に訊かれてびっくりする翔也。
「そうだな。小さい頃は家族ぐるみで来たことはあるが……」
翔也は二葉の方を見る。
「そ、そうだね……。昔は一花や三咲も一緒にいたし……。それ以来かな?」
二葉も小さな声だったが答えた。
「なるほどね」
唯は仏頂面で前を向く。
「ほら、次、来るわよ」
そう言われて、四人は賽銭箱に五円玉を入れ、参拝する。
手を合わせ、目をつぶる。
それぞれの願いを思い描きながら十数秒間が過ぎると、目を開き、本堂を後にする。
まだ、ここは山の中腹。
もう少し上ると、本命の弘法大師の大きな石像が見えてくる。
四人は坂を上り、神社の駐車場を横切ると、道には屋台が見えてくる。
「それにしてもこんなところまで屋台があるとは……。人も多いし、何か酔いそうだな」
「仕方ないだろ? ここもここで意外と人気のある場所なんだよ」
「へぇー」
達巳の答えに翔也は少し驚く。
「でも、やっぱり下の方や公園の近くの方がいいんじゃない」
唯が達巳の言葉に疑問を浮かべていた。
「それもそうなんだが、ここは意外と場所代が安くて穴場なんだよ。公園の近くや山のすぐ近くにある屋台はもう少し高めに設定されている。売り上げを上げるなら、ここがベストだな」
「そうだったのね」
唯は小さく頷く。
この近くには警察がいつでも動けるように専用のテントまでセットされている。
再び長い階段が現れるが、横に二列くらいになれる程度の幅しかない。
「翔也と二葉ちゃんが先に行けよ」
「そうよ。早く行きなさい」
達巳と唯が、二人の背中を押す。
「おい、押すなって! 危ないだろ‼」
「唯ちゃん、私一人でも大丈夫だし……」
翔也と二葉は、背中を押されたまま、階段の近くまで行く。
そして、唯は二葉の耳元でささやく。
「いい? 今日はあんたのためにやっているのよ。しっかりしなさい」
「で、でも……」
「でもも、くそったれもないわよ」
唯は二葉を睨みつける。
「は、はい……」
二葉は唯の威圧に圧倒されて、恐る恐る返事をする。
翔也と二葉は、渋々と前を歩かされ、階段を上る。
弘法大師は遠くで見るより、近くで見た方が、迫力があり、それは近づくたびによくわかる。
「でけっ……」
「本当だね……」
翔也が眩しそうに上を見上げると、おおよそ二十~三十メートルくらいの弘法大師が参拝者をどっしりと待ち構えている雰囲気がした。
「で? 達巳、中に入るのか?」
「そうだな。お金はかかるがそこまでかからないし、上ってみるか?」
「そうね。その方がいいかもしれないわね」
達巳と唯はうんうんと頷く。
四人は建物の中に入り、一人百円ずつ支払い、階段を上っていく。
「意外とこの中、今までの歴史が載っているのね」
唯は壁に貼ってある写真や今までの旭ヶ丘市の歴史が書かれた文章を見ながら関心していた。
一列で上る階段は意外と狭く、先頭に翔也、二葉、唯、達巳の順に進んでいく。
階段を上り終えると、弘法大師のお膝下から旭ヶ丘市を一望できる。
「すごい」
二葉はその景色を見て、笑顔になっていた。
「そうね。もうちょっと、あなたが積極的になってくれるとありがたいんだけど……」
その隣で立つ、唯が言った
「なぁ、達巳。なんで、お前と竹下って、仲良かったか?」
「ん? そう見える?」
「なんか、妙に息があっているというか、ちょっとな」
翔也は景色を眺めている二葉と唯を見ながら、その後ろで達巳と話をする。
「そうかい。唯ちゃんは、ああ見えて、繊細だよ。自分では言わないけど……」
達巳は唯の元へと歩き出す。
(やっぱり、分からねぇ……)
翔也は、近くのベンチに座り、ふわぁ、と欠伸をしながら目をつぶる。
「唯ちゃん。そろそろ、いいかい?」
と、小声で達巳が唯の耳元で言う。
「え? もう、そんな時間?」
それを聞いた唯が、チラッと達巳の方を見た。
「なんとなく、ここら辺がいいと思ってな。互いにこっそりと抜けた方がいいだろ? 後は打ち合わせ通りに進めるってことで……」
「いいわよ。それもこの子のためになるならいいんだけど」
「大丈夫。これならいけるはずだよ。翔也は二葉ちゃんを一人にはしないから」
そう言って、唯の手首を握る。
「行くよ……」
二人は、そっと、翔也と二葉の前から姿を消す。
「ねぇ、唯ちゃん。あそこに……って、あれ? 唯ちゃん……?」
二葉は振り返ると、そこには唯の姿はなかった。
辺りを見渡しても唯の姿が見当たらない。
「あれ?」
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