首を傾げる二葉。

 すると、ベンチで座って眠りかぶっている翔也を発見する。

(翔ちゃんはいるんだ。でも、北村君の姿も見えないな……。どこに行ったんだろう。あの二人……)

 二葉は翔也がいるベンチまで行くと、隣に座る。

 座っている間に少しずつ時間が過ぎていく。

「あの……翔ちゃん?」

 二葉は、翔也の左肩を掴んで体を揺する。

「ん? ああ、二葉か……。どうしたんだ?」

「そ、その……二人がいないんだけど?」

「はぁ? 二人がいない?」

 そう言われて、翔也はあたりを見渡す。

 二葉の言う通り、達巳と唯の姿が見えない。

「本当だな。あいつらの姿がないな」

 二葉は心配そうに翔也の方を見て、袖を握る。

 翔也は達巳に電話を掛ける。

『はい、はーい』

 達巳は元気よく電話に出てきた。

「お前、今、どこにいるんだ? 後、竹下も……。二葉が不安がっているぞ!」

『あー、なんだ。そんなことか……』

「そんなことって、お前な……」

 翔也はため息がつきそうで、嫌な表情を少しする。

『まぁ、こっちもこっちで色々と、トラブルがあってな。後の事はよろしく。なーに、お前の事だから、二葉ちゃんの事、大事にできるだろ?』

「……」

『じゃ、また、後で連絡するからな』

 そう言い残して、達巳は電話を切った。

(あの野郎、計ってやがったな! 俺と二葉が二人っきりになるように考えてただろう。と、なると、おそらく竹下もグルだな……)

 スマホをポケットに直しながら、頭の中で考える。

「翔ちゃん?」

 二葉が話しかける。

「どうした?」

「これからどうする?」

「どうするって言ってもな……。とりあえず、山を下りるか?」

「うん……」

 二葉は小さく頷く。

 二人は外の階段を下りて、元来た道を引き返す。


 一方、その頃——

「動いたぞ」

 男が二人の動きを確認すると、もう一人の女に声を掛けた。

「これ、大丈夫なの?」

 女は不安そうに言った。

「大丈夫だって、俺たちはただ見守るだけ、そうだろ?」

「それはそうだけど……」

 男女二人は、達巳と唯だった。

 達巳が持ってきた変装の小道具である眼鏡とマスクをつけて、二人の様子を窺う。

「さーて、ここからが本番だぞ。あまりがっかりさせるなよ、翔也」

「あなた、もし、二葉に何かがあったら許さないわよ」

「分かってる。分かっているって……」

 達巳と唯は、翔也と二葉の二人から約二十メートル後ろを歩く。

 ここは隠れる場所もなく、距離を置かないと難しい。

「何話しているのか聞こえないな。もう少し近づいてみるか?」

「危ないんじゃないかしら? これくらいの距離を保ちながらもう少ししたところで、近づきましょう」

 と、唯は提案する。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る