Ⅵ
一花が真正面から喧嘩するなら、三咲には勝ち目はない。
三咲は足を揃えて、しゅんとした顔をする。
「まぁ、私も悪いところはありましたが、あなたに譲るつもりはありませんし、手を抜くつもりもありません。それでも勝ち目があるなら向かってくるといいですよ」
三咲もすぐに元気を取り戻し、一花を見る。
「ふん! それでも最後に勝つのは私よ。一花なんかに負けやしないもん」
「ふふふ」
「ははは」
翔也からして、二人の後ろには龍と虎が見えたような気がした。
(き、気のせいだよな……)
翔也は二人のいがみ合に何も手を出せなかった。
「ふ、二人とも? もう、その辺で……」
「翔君」
「翔也君」
「「黙ってて‼」」
「は、はい……」
二人に睨まれて、翔也の立場がない。
「私に勝てるとでも思っているのですか?」
「あら? じゃあ、一花ちゃんは私にもう、勝っているつもりなんだ」
「当然です。三咲みたいに優柔不断ではありませんので」
「くっ……」
一花に言われて、三咲は少し悔しがる。
「ま、これくらいにしておきましょう」
一花は開き直って、翔也の方を見る。
「翔也君、それでなんですが……」
「あ、ああ……」
「今日はこの辺にしましょう。これ以上、やっても勉強に支障が出ると思いますので……」
「そ、そうだな……」
翔也と一花は、それぞれの道具を直し始める。
それを眺めながら、三咲は面白くなさそうに思っていた。
(ちぇ……まさか、一花がこんな手で出てくるとは思っていなかったわ。ちょっと、後手を踏んだかしら?)
二人は道具を直し終えると、翔也は立ち上がって帰ろうとする。
「じゃあ、俺、もう帰るわ」
「は、はい」
「私もついていくわ」
二葉がそう言って、三人は玄関に向かって階段を降りる。
靴を履き、扉を開けようとしたとき、振り返って二人の方を見る。
「じゃあ、また、明日、学校で……」
「はい、学校で……」
「翔君じゃあね」
翔也は扉をそっと閉じた。
「……」
「……」
一花と三咲は、互いに互いの顔を見て、黙ったまま威嚇する。
「私、負ける気ないから!」
三咲から宣戦布告する。
「私だって負けるつもりはありません」
一花も負けじと言い返す。
そして、二人はそれぞれの部屋に戻った。
帰宅後——
「はぁ……」
翔也は扉に寄りかかり、ため息をついた。
(疲れた……。ま、一番最後がつかれたんだけどな……)
靴を脱ぎ、リビングに向かう。扉を開けると、いつも通り、テレビを点けながら、夏海が夕食の準備をしている最中だった。
「ただいま」
「おかえり~! どうだった?」
「なにが?」
「そりゃあ、一花ちゃんとの勉強会だよ」
「何だよ、知っていたのかよ。誰に聞いたんだ?」
荷物を床に置き、冷蔵庫からお茶を取り出し、口をつけずに飲む。
「ん? お母さんだけど?」
「あ、そう……」
「それよりもどうだったの? 楽しかった?」
夏海は興味津々に翔也に詳細を聞いてくる。
「さぁな。普通だったよ」
「えー、おもしろくないですな……。絶対に何かあったでしょ?」
「うるさいな。手が止まってるぞ。本人がないって言えばないの」
翔也は飲み終えたお茶のペットボトルを流し台に置く。
「そんなもんですかね?」
「そういうもんだ。それでいいだろ?」
翔也はソファーで横になり、夕方のニュースを聞きながら目をつぶる。
(ま、お兄ちゃんの事だから何かあったんだろうけど、そのことは後で一花ちゃんにでも訊いておこうっと……)
夏海は再び料理に集中し始めた。
夕食を食べ終えた後、風呂に入り、自分の部屋に戻ってきた翔也は寝る前にスマホを開いた。
そこには一花からのメッセージが一件入っていた。
『今日はすみませんでした。私としたことが取り乱してしまいました。で、でも、今日は本当に楽しかったですよ。明日のテスト、頑張りましょう! おやすみなさい』
と、書かれてあった。
そして、翔也はそのまま眠りについた。
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