Ⅳ
「それならよかったです」
一花は、それを聞いてホッとした。
「そういえば、今日は他の二人、どうしているんだ?」
翔也は一花に二葉と三咲の安否を確認する。
「二人……あ、二葉と三咲の事ですね。二人は、外に出かけていますよ。二葉は友達の家に、三咲は分かりません」
「あ、そう……」
「何か二人に用事でも?」
「いや、妙に家が静かだなと思って……」
「そうですね。二人がいない時はこんな感じですよ。それでも一番うるさいのは三咲なんですけどね……」
一花は微笑みながら言った。
「ちょっと分かるな。あいつ、部屋でアニメやゲームばっかりしているだろ」
「そうですね。いつもそうです。勉強をしている姿なんて見たことがありません。姉妹としては、少しはマシになってほしいくらいです」
二人はクッキーをしながら談笑し、きりのいいところで再び勉強を始める。
時間はどんどん過ぎていき、お昼になる。
丁度、十二時半頃に由紀が二人を呼びに来て、一緒にお昼を食べる。
それから一休みして、午後は国語の対策に入る。
余裕はあったのだが、国語は文章を読んでいくうちに頭の回転が鈍くなっていく。
「ここが、問題の鍵となりまして……」
一花も翔也の異変に気付く。
「ええと……」
困った表情をする一花。
「……」
黙ったまま目をつぶり、一言もしゃべらない翔也は、完全に眠りについている。
「はぇ?」
寝ている幼馴染の男の子の顔を見て、動揺しながらあたふたする。
(ね、寝ているのですか⁉ え、どうすれば‼)
一花は悩みながらはっ、と思いつく。
(そうですね。さすがにハードワークもダメですし、毛布でも掛けておきますか……)
一花は、クローゼットから毛布を取り出して、翔也の背中にかぶせる。
「……」
翔也はまだ、何も気づいていない。
(仕方ないですね……。私も少し休憩しましょうか……)
一花は、自分と翔也のノートを片づけ、自分も少し休憩する。
× × ×
(ん? 何かおもてぇ……)
自分の体が鉛のような重さを感じていた。
ゆっくりと目を開けると、知らない天井がそこにあった。
特に右腕が動かない。
(あ、いつの間にか疲れて寝ていたのか……)
翔也は起き上がろうとするが、起き上がれない。
顔を右に向けると、一花が翔也の腕を枕代わりに寝ていた。
(な、なんで一花が一緒に寝ているんだ⁉)
逃げようとするが、しっかりと固定されて逃げることができない。
「お、おい。一花、起きてくれ……」
小声で翔也が呼びかける。
すると、扉の向こうから声がした。
「一花、翔也君。勉強の方はどう?」
この声の持ち主は三姉妹の母・由紀の声だ。
「入るわよ……」
由紀は、部屋に入った途端、部屋の時が止まる。
こういう時こそ、とある芸人が言う『時を戻そう』がわかる気がすると、翔也は思った。
「あ、これは……その……」
「ふふふ、別に言い訳しなくてもいいわよ」
由紀は笑みを浮かべて、面白そうに事らを見ている」
「言い訳とかじゃなくて……」
「ふぇ……」
一花がようやく目を覚ました。
「……」
「……」
翔也と一花は互いに顔を見合わせる。
「あ、あの……‼」
一花はあたふたして、すぐに起き上がり、後ずさりする。
「あらあら、一花ちゃん。珍しいわね。あなたが勉強中に寝るなんて」
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