「それならよかったです」

 一花は、それを聞いてホッとした。

「そういえば、今日は他の二人、どうしているんだ?」

 翔也は一花に二葉と三咲の安否を確認する。

「二人……あ、二葉と三咲の事ですね。二人は、外に出かけていますよ。二葉は友達の家に、三咲は分かりません」

「あ、そう……」

「何か二人に用事でも?」

「いや、妙に家が静かだなと思って……」

「そうですね。二人がいない時はこんな感じですよ。それでも一番うるさいのは三咲なんですけどね……」

 一花は微笑みながら言った。

「ちょっと分かるな。あいつ、部屋でアニメやゲームばっかりしているだろ」

「そうですね。いつもそうです。勉強をしている姿なんて見たことがありません。姉妹としては、少しはマシになってほしいくらいです」

 二人はクッキーをしながら談笑し、きりのいいところで再び勉強を始める。

 時間はどんどん過ぎていき、お昼になる。

 丁度、十二時半頃に由紀が二人を呼びに来て、一緒にお昼を食べる。

 それから一休みして、午後は国語の対策に入る。

 余裕はあったのだが、国語は文章を読んでいくうちに頭の回転が鈍くなっていく。

「ここが、問題の鍵となりまして……」

 一花も翔也の異変に気付く。

「ええと……」

 困った表情をする一花。

「……」

 黙ったまま目をつぶり、一言もしゃべらない翔也は、完全に眠りについている。

「はぇ?」

 寝ている幼馴染の男の子の顔を見て、動揺しながらあたふたする。

(ね、寝ているのですか⁉ え、どうすれば‼)

 一花は悩みながらはっ、と思いつく。

(そうですね。さすがにハードワークもダメですし、毛布でも掛けておきますか……)

 一花は、クローゼットから毛布を取り出して、翔也の背中にかぶせる。

「……」

 翔也はまだ、何も気づいていない。

(仕方ないですね……。私も少し休憩しましょうか……)

 一花は、自分と翔也のノートを片づけ、自分も少し休憩する。


   ×   ×   ×


(ん? 何かおもてぇ……)

 自分の体が鉛のような重さを感じていた。

 ゆっくりと目を開けると、知らない天井がそこにあった。

 特に右腕が動かない。

(あ、いつの間にか疲れて寝ていたのか……)

 翔也は起き上がろうとするが、起き上がれない。

 顔を右に向けると、一花が翔也の腕を枕代わりに寝ていた。

(な、なんで一花が一緒に寝ているんだ⁉)

 逃げようとするが、しっかりと固定されて逃げることができない。

「お、おい。一花、起きてくれ……」

 小声で翔也が呼びかける。

 すると、扉の向こうから声がした。

「一花、翔也君。勉強の方はどう?」

 この声の持ち主は三姉妹の母・由紀の声だ。

「入るわよ……」

 由紀は、部屋に入った途端、部屋の時が止まる。

 こういう時こそ、とある芸人が言う『時を戻そう』がわかる気がすると、翔也は思った。

「あ、これは……その……」

「ふふふ、別に言い訳しなくてもいいわよ」

 由紀は笑みを浮かべて、面白そうに事らを見ている」

「言い訳とかじゃなくて……」

「ふぇ……」

 一花がようやく目を覚ました。

「……」

「……」

 翔也と一花は互いに顔を見合わせる。

「あ、あの……‼」

 一花はあたふたして、すぐに起き上がり、後ずさりする。

「あらあら、一花ちゃん。珍しいわね。あなたが勉強中に寝るなんて」

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