Ⅲ
『え? ああ、そうだな。aじゃなくてuか』
『そうですよ。焦らずにスペルの意味まで覚える。ここはなぜ、こう読むのかを理解したうえで覚える方が日本語訳も覚えられると思いますよ』
二人は真剣にテスト勉強の対策をしている。
(本当に勉強しているわね……。二葉はともかく、三咲はやっぱりあのままじゃ三年生の時が不安だわ)
由紀は扉をノックし、を開ける。
「一花、翔也君。飲み物持ってきたけど、どこに置いておけばいいかしら?」
二人は手の動きを止め、由紀の方を見る。
「お母さん、ありがとうございます。そうですね。私の机の上にでも置いておいてください。零れそうなところに置くと困るので」
「はいはい。分かりました」
由紀は、二人の目の前を通過し、一花の勉強机にお盆を置く。
「あ、ありがとうございます」
翔也は礼を言う。
「いいのよ。しっかり勉強しているようだし、頑張ってね」
「はい」
翔也は返事をする。
「あ、そうだ。翔也君。お昼は家で食べていってね」
「え、いや、それはご迷惑じゃ……」
翔也は申し訳なさそうな顔をする。
「いいのよ。摩耶ちゃんには連絡してあるから」
「母さんにですか?」
「そうよ。だから、夕方まで頑張ってね」
「は、はぁ……」
「それじゃあ、二人とも頑張ってね」
と、由紀はそう言い残して、扉を閉めた。
(もう、お母さんったら……。何を考えているんですか……)
一花は、頭を抱える。
(はぁ……)
そして、二人は、再び英語のテスト勉強を始める。
「ん、んん……。それでは再開しましょうか?」
「そ、そうだな」
一花が翔也に徹底的にテストに出そうな所を叩きこむ。
「それぞれの単語を文章に並び替える問題は、おそらくこことここを重点的にやっておけば問題ないと思います。ここは、センター試験にも出てくるような問題と書いてありますからあの人の性格からして、ここは出すと思いますよ」
「なるほどね。普通の模擬試験の問題よりかは、センターに出た問題が重要だと……?」
「はい。センター試験の中身はあまり変わりませんが、内容は変わります。しっかりと勉強しておけば点は取れますよ」
「ふーん」
翔也は一花の話を真に受ける。
「で、長文の場合はどうすればいいんだ? 俺、日本語訳とか苦手だし、あまりにも長い、あれは、眠そうで問題すら頭に入ってこないんだが……」
「……」
「なんだよ……」
「いえ、何でもありませんよ」
一花は悩んでいる翔也の顔を見て、ちょっぴり安心感を覚える。
今まで知らなかった翔也の事を久しぶりに知れてうれしく思う自分がどこかにいる。
それでも、ちょっとの笑みが止まらない。
「そうですね。長文は段落ごとに分けて、分かる単語だけ日本語に訳していけば大体は分かると思いますよ。でも、それはただのその場のやり過ごしにしかなりません。英語は常にどれだけ意味を理解するかです。頑張ってくださいね」
「マジかよ……。で、一花はどれくらい覚えているんだ?」
翔也は恐る恐る訊いてみる。
「そうですね。一年生で学んだ単語の九割は覚えていますよ」
「きゅ、九割ね……」
それを聞いて、翔也は苦笑いをする。
自分は、その半分以下だと自覚する翔也。英語はたまに平均点以下を何度かとったことがある。
「さて、一度休憩を取りましょうか」
「そ、そうだな……」
二人はノートなどを閉じ、一花は由紀が持ってきたジュースを机からテーブルへと移動させる。
翔也の前にコップを置き、自分の分も用意して、クッキーを載せたお盆を中央に置く。
「どうですか? 少しはマシにはなりましたか?」
一花はジュースを飲みながら翔也に訊く。
「ま、多少はね……」
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