(だ、大丈夫でしょうか? 服も変ではないですし、部屋も……大丈夫ですよね?)

 と、心配事ばかりがたまりにたまっていた。

 鏡を見ながら、最後に服装と髪形をチェックする。いつもは結ばない髪も一つに纏め、膝まで伸ばしたスカートに女の子らしい服。

(んー。これはこれで勝負に出すぎですかね?)

 と、一花が悩んでいるとインターホンの鳴る音がした。

「多分、来ましたね」

 一花は部屋を出て、二階から一階に降りる。

 だが、一花よりも先に誰かが玄関に着いていた。

 母親の由紀だ。

 扉を開け、この家に来た人物にびっくりする。

「あら、翔也君。久しぶりね。どうしたの、いきなり家に来ちゃって。誰かに用事?」

「え、ああ……。その……一花に呼ばれていまして……」

「そ、そうなの! 一花にねぇ……」

 由紀はニヤニヤしながら翔也の事を見る。

「分かったわ。少し待っていてもらえるかしら? すぐに読んでくるから」

 と、言い残して気配がする方へと由紀は歩いていく。

 洗面所に身を隠していた一花を見つけ、ニヤニヤしながら話しかける。

「さて、そこに隠れている一花ちゃん。どうするの?」

「え? なんですか? 突然……」

「あら~。一花ちゃんから誘っているくせに、妙に今日はやたらと気合が入っているなって思ったら、そういう事だったのね」

「べ、別に気合なんて入れてないですよ……。それがどうかしましたか?」

「ふーん。その髪型に、その服。どこが気合入れていないのやら……。娘としては、もう少し積極的になってほしいわね」

「ど、どういう意味ですか! お母さん!」

 二人は小声で話していた。

「ま、それにしても翔也君を待たせるのもなんだし、早く上がらせたら?」

「分かりました。お母さんは余計なことをしないでくださいね」

「はいはい。分かっているわよ」

「お願いしますよ」

 そう言って、一花は玄関で待つ翔也の元へ向かった。

「すみません。お待たせしました」

「あ、ああ……。大丈夫だけど……」

「あ、上がってください……」

「うん……」

 二人は一花の部屋に向かう。

「ど、どうぞ……」

 部屋に入り、翔也は小さなテーブルの前に座る。

 テーブルには春課題やノート、シャープペンなどが置かれてある。

 部屋の周りは綺麗でいかにも女の子らしいものが置いてある。

 一花は眼鏡を掛けて、翔也の横に座る。

(てか、近い、近い。なにこれ……)

 翔也の心臓がバクバクする。

(こ、これぐらい普通です。何でもありません。何でも……)

 一花も緊張している。

「ええと、それで、何を教えてくれるんだ?」

「そ、そうですね。あなたの苦手な教科でもやりましょうか? 得意な教科をやっても、せいぜい五~十点しか上がりませんし……」

 一花は悩んでいた。

「俺の苦手なのは、英語と国語。今回の春課題テストは、後、数学を入れた三教科だからな」

「そうですね。では、英語から始めましょう。国語は、コツをつかめさえすれば簡単ですし、数学は公式次第ですからね」

 一花は考えをまとめた。

 そして、英語の春課題を手に取り、単語のページを開き、ノートを開く

「さて、とりあえず英語の単語から覚えましょう。私なりに山を張ってみました。これさえ覚えておけば大丈夫なはずです」

 と、ノートに書かれてある英単語を指さす。

「たった十個だけでいいのか?」

 それを見た翔也は、驚く。

「はい。これさえ覚えておけば何とかなります。作る先生の事を考えると、これさえ覚えておけば半分以上の点は取れると思います。日本語訳はともかく、英語のスペルを間違えないところが重要です」

「なるほど……」

 翔也も真剣に話を聞き、持ってきたノートを開いて、一花のノートを写し始める。

「先に訊いておきたかったんだが……」

「なんでしょうか?」

 一花は首を傾げる。

「今回のテスト、誰が作るんだっけ?」

「え? 知らないんですか? 灰田先生ですよ」

「ああ、あの厳しい先生ね。ま、二年になって、担当教科にならないでよかったけど」

 翔也は思い出すだけで、ゾッとする。

「そうですね。厳しいですが、中身は的確でしたよ。今回の担当の先生は、評判のいい先生ですし、大丈夫だと思いますよ」

 一花は翔也の言葉に苦笑いをする。

「そうか。と、なると……英語は結構難しい感じの内容になるのか?」

「そうですね。今回は春課題というわけですし、そんなにレベルの高い問題は出ないと思いますよ。でも、簡単でもないですね」

「なるほど……」

 英単語を書きながら、一花の言葉を真に受ける翔也。それだけ、彼にとって、英語というのは苦手なものである。

 二人が楽しそうに勉強会をしている一方でリビングでは由紀がキッチンで飲み物を作っていた。

「なるほどね。摩耶ちゃんが、朝から連絡くれると思ったらそういう事だったのね」

『そうなのよ。まさか、一花ちゃんに用事があるなんて思ってもみなかったけど……』

「あら、私はいい組み合わせだと思うわよ」

『本当に~?』

 と、スマホの通話をスピーカーにして、話している相手は、翔也の母、摩耶だった。

「それに言ったら悪いけど、一花だけではなく三咲にも手を出しているみたいだしね」

『そうなの⁉ あの子、殺されたりしないかしら?』

「大丈夫よ。翔也君はしっかりしているし、私の子もしっかりしているわよ」

『ならいいんだけど……』

 摩耶は不安でしかなかった。

「ま、お昼はこっちで何か食べさせておくから心配しなくてもいいわよ」

『ありがとう。何かあったら連絡して』

「分かったわ。それじゃあね」

 由紀は電話を切った。

 コップにジュースを入れ、それをお盆の上に置く。お菓子は、クッキーを置く。

「さて、行きますか」

 そう言って、由紀は一花の部屋へと向かった。

 階段を上り、一花の部屋にたどり着く。二人が真剣に勉強をしているのが聞こえてくる。

『ここは、スペルが間違っていますよ』

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