「一花ちゃん。私はいいからお兄ちゃん見ててくれませんか?」

「え? ええ⁉」

 一花は少し混乱する。

(それくらいで動揺するなよ)

「別にいいよ。すぐに戻って来るから……それよりも俺が戻ってくるまでにはしっかりと決めておくんだぞ」

 と、言い残し翔也はお菓子売り場へと向かった。

 取り残された夏海、一花に話しかける。

「あー、その…ですね……。一応、お兄ちゃんの事、見ててもらえませんか? ああ見えて、一人でいるとどこそこ行ってしまうので見ててもらえると、助かるんですよね。一応、荷物持ちで来ているんで……」

「そ、そうなんですね……」

 一花は苦笑いする。

「はい、一応、ここは私に任せておいてください。一花ちゃんは、絶対にお兄ちゃんがどこかへ行かないように見張ってくれると助かります!」

「は、はい……。分かりました……」

 一花は困った顔をしながらも返事をした。

 それから一花は、翔也を追いかけるようにお菓子売り場へと歩いていく。

(わ、私一人で、まともに話せるでしょうか? さっきは夏海ちゃんがいたからよかったものの……。そうです。普通に話せばいいんです。普通に……)

 一花は様々な商品が並んである棚の間の通路を早歩きで通る。

 そして、次の角を曲がれば翔也がいるはずのお菓子売り場だ。

 一花が到着したころには、翔也は、真剣に欲しいお菓子を睨みつけながらにらんでいた。

(ここでいいのでしょうか? でも、離れたところで監視するのもなんだか悪い気がしますし……。もう少し近づいてみましょう)

 一花は翔也に恐る恐る近づく。

「一花、そんなに俺が怖いか?」

 翔也が一花の気配に気づいたか。話しかけてきた。

「え?」

「まぁ、いい……。どうせ、夏海に言われてきたんだろ?」

「はい……」

 一花は、黙り込む。

(夏海の奴、一体何を考えているんだ?)

 翔也はスマホを開き、LINEのメッセージを送る。

『おい、なんで、こっちに一花が来ているんだよ』

『はい、はーい。まぁ、いいじゃん、いいじゃん!』

『答えになっていない。俺はそっちにいるように言ったはずなんだが?』

『はぁ……。お兄ちゃん、何もわかっていないじゃん……』

『はぁ? 何のことだ?』

『駄目だこりゃ……。お兄ちゃんに何言っても分からないよね……』

『言ってみろよ』

『分かった……。一花ちゃんの事、お願いね。以上! 後で雑貨屋さんとか一緒に回りたいから! 分かった?』

『……』

 夏海に言われて、翔也は黙り込む。

『ま、とにかくよろしく!』

 と、メッセージを残し、スタンプを送ってきた。

「はぁ……」

 翔也は、ため息が漏れる。

 スマホをポケットに直し、一花を見る。

「なぁ、一花。このお菓子、どっちがいいと思う?」

 翔也は、チョコレートと飴玉の袋を見せて、一花に話しかける。

「そ、そうですね……。私だったらチョコレートですかね。勉強するときは、甘いものは確かにいいですが、私的にはチョコレートです」

 一花はそう答えた。

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