Ⅵ
一花は何か決心したように左手に持っていたノートを戻し、かごの中に入れ、翔也の方に向かって歩いて来る。
「よ、よお。珍しいな……」
翔也はつい声を掛けてしまう。
すると、驚いた様子で一花は翔也を見た。
(そんなに驚くことはないだろ)
が、声を掛けたのが翔也だと分かると、少し不思議そうな顔をして翔也たちの前で止まる。
「こ、こんにちは」
「あ、ああ。こんな所で、一人でいるのは珍しいな。一人で来たのか?」
「え、ええ。新学期ですので、文房具を新調しようかと……」
「そうか。文房具ね……」
かごの中には、文房具が入っている。
「で、これからどうするわけ?」
「……支払いをして、次の場所に行きます」
一花はこの場から早く離れたい表情で今にも倒れそうなくらい苦しげに話す。
「あ、そう……」
「一花ちゃん、お久しぶり」
「お久しぶりです。夏海ちゃんも一緒に来ていたんですね」
「今日は、お兄ちゃんと買い物なんです」
一花は翔也と夏海を交互に見てから、透明な笑みを浮かべた。
「……相変わらず仲がいいんですね」
「別に妹だからだよ。もう、この性格にも慣れたからな」
「そう。それじゃあ……」
「ああ、じゃあな……」
お互いにこれ以上の関わりを避けるようにして、別れを告げる。
「ちょっと待った! 一花ちゃん。せっかくだし一緒に回りませんか?」
過ぎ去ろうとした一花を夏海が呼び止める。
「どうせ私とお兄ちゃんだけでは面白くないですし、暇なんですよ。一緒に回ろうよ」
「え? あ……」
一花は翔也の方を見る。
「で、でも兄妹で仲良く買い物なんですし、邪魔なんじゃ……」
否定する一花。
「休日なんですし、久しぶりに一緒に遊ぼうよ、一花ちゃん!」
夏海が閃いたかのようにぽんと手を打った。
(おい、何を言っているんだ? こいつ……)
「ねぇ、お兄ちゃん。いいでしょ?」
キョトンとした表情で夏海は首を傾げる。
「でもな……」
翔也は一花の方を見る。
「ま、いいんじゃないんですか? 私は別に……」
一花が諦めたように困った顔をしていた。
(ま、俺といても仕方ないだろ。夏海が迷惑かけるな)
それからは三人で一緒に回り、いろんな所を見る。
「おい、夏海、これ見ろ、これ。安いぞ。買おうぜ!」
思わず翔也は足を止めて、手に取ったタブレットに見とれてしまう。
「えーそんなどこの会社か分からない電化製品なんて買っても無駄だよ。いつ壊れるか分からないし、駄目だよ」
「そうか? 俺にとっては知っている会社なんだけどな。ここ、海外製だし、安いし、知っているんだけどな」
翔也は悲しげにタブレットを商品棚に戻す。
× × ×
電化製品を見終わり、食材コーナーへと向かう。
まずはいろんな野菜が並んでいるところを回る。ここに着いた途端、夏海が食いつきそうな食材がたくさん並んでおり、騒ぎながら真剣に野菜の新鮮なものを選んでいく。
一方の一花は、夏海の隣で、一緒に野菜を見る。
(意外と一花と夏海って、仲がいいんだよな……)
翔也はカートを押しながら二人を眺めている。
(……なぜか、俺が荷物持ち……ま、当然なんだが……)
「夏海、決まったか?」
「うーん。それがいいのがあまりないんだよね。やっぱ、休日だからかな? いいのは、主婦に取って行かれている感じ……」
「なるほどね……」
(鮮度の問題ってわけね)
翔也は、夏海が選び終えるまでお菓子売り場に行こうとした。
「じゃあ、一花。ちょっと、買いたいお菓子があるから夏海の事、見ててくれ」
「ま、別にいいですけど……」
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