Ⅲ
準備を終えると、すぐさま部室に直行する。
部室には、まだ、誰も来ておらず制服から練習着に着替え、荷物を棚に置き、テニスラケットを右手に持ち、左手にはボールの入ったかごをもつ。
「少し早いが、練習に行くか?」
翔也が達巳に問いかける。
「う、うん。ちょっ…まっ…」
達巳はパンを銜えたまま、返事をする。
ラケットを持ち、翔也の後を追う。
テニスコートはグラウンドを通り、奥の方に四コートある。
二人は軽くラリーをしながら、他の部員たちが来るのを待つ。
後からぞろぞろと、部員たちはやってきて、その中に二葉の姿もあった。
四月の部活動は、日没時間も考えて、午後六時半までとなっている。
西高は進学校であり、帰ってからの勉強時間も両立しなければならない。
太陽が沈み、空も暗くなってきたころ、テニス部の顧問が、腕時計を確認して、終了の合図を送った。
部員たちは、ボールを片づけたり、コート整備を行う。
片づけを終え、男女共々集合し、顧問の先生の話を聞いた後、解散する。
「はぁ、疲れた……」
と、達巳がため息をしながら言った。
「それにしてもうちの高校って、時間ぴったりに終わるよな。ほら、県では強豪のサッカー部やラグビー部まで終わっているんだぜ」
「ま、それだけ勉強もしろ、ってことなんだろ?」
二人はグラウンドの隅を通りながら、部室等に向かう。
「でも、ここ数年、留年した奴はいないらしい。それも赤点を取っている生徒かかわらず、な。テストの成績が悪くても、課題や授業の出席で何とかカバーできる噂があるらしい。何か不思議だとは思わないか?」
「俺に訊いてもわからねぇーよ。先生に訊け、先生に…」
部室に戻ると、ラケットを袋に直し、荷物を持って駐輪場に向かう。
下校時間になると、他の生徒たちもぞろぞろと駐輪場に集まり、部活を終え、下校指導に当たる教師が「早く帰れ」と、生徒たちを速やかに帰そうと、呼びかける。
自転車にラケットを積み、カギを外す。
自転車を少し移動させてから、またがり、ペダルを漕ぎ始める。
「翔也、帰りにコンビに寄らないか? どうしても、今週号にマンガを買っておきたいだが、大丈夫か?」
「ん? ああ、いいよ。早く帰ってもやることは課題くらいだからな」
翔也と達巳は、自転車で並走しながら近くのコンビニへと向かった。
女子テニス部更衣室——
二葉は、下校の準備をしていた。
「二葉、一緒に帰ろう」
と、二葉に話を掛けてくる女子がいた。
練習着のまま、バックをからい、後ろ髪は一つにまとめ髪留め留めた顔立ちのいい少女が立っていた。
「うん。少し待っていて、唯ちゃん」
二葉に名前で呼ばれた少女・唯。
竹下唯は、小学校の頃からの親友である。
家が、本屋という事でもあり、幼い頃から二葉とは交流がある。
ちなみに彼女は二年B組の生徒でもある。
女子テニス部の中では敵なしであり、県では一年の時にベスト8まで進んだ実績がある。
二人は二階にある女子テニス部の部室を出て、階段を降り、駐輪場に向かう。
「それで、何があったの?」
唯は、二葉の表情を見て言った。
「えっ? 何か、変なところあった?」
「まーね。あんたを見ていれば、少しは分かるわよ。何年一緒に友達でいるのよ」
唯と二葉は、隣同士に止めておいた自転車の鍵を解除し、自転車に乗って下校する。
「でも、あの様子からすると、あんたから攻めないと勝ち目はないわよ」
「え? えええ⁉」
二葉は、おどおどする。
「はぁ、せっかく一年間同じ部活でチャンスもあっただろうに内気でいるから、先を越されるのよ」
唯は、ため息をつきながら呆れていた。
「……」
二葉は黙ったままでいる。
「でも、三咲に越されるとはね。あの二人、何があったの?」
「…分からない……」
「そう」
唯は、二葉の様子を見ながら考える。
(山下君の状況を理解しているのは、やっぱ、あの男しかいないという事ね……)
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