三咲は、さっきまで一緒に居たはずの達巳がいないのに気付く。

「ああ。あいつならパンを買うために戦っているぞ」

 翔也は、人だまりになっている方を指さす。

 そこには、パンを取り合いになっている生徒たちが、お金を払い、次々と流れていく。

 翔也と三咲は、達巳が戻ってくるのを待つことにした。

「あ、そういえば、昨日の写真の事なんだけど…」

 三咲は、財布から切り取っておいたプリクラを取り出す。

「はい、これ。翔君の分ね」

 プリクラを翔也に渡す。

「ありがとう…」

 翔也は少し恥ずかしそうに受け取る。

「でね。今度、暇になったらで、いいから遊びに行こうよ」

「ああ、そうだな。暇になったらな」

 二人が話していると、パンの争奪戦に何とか勝ち星を挙げてきた達巳が戻って来る。

「お待たせ。待たせて、すまなかったな」

 達巳は謝ると、三人は教室に戻る。

 教室に戻った後、翔也と三咲は自分の席に、達巳は翔也の前の席のクラスメイトがいないことを確認して、弁当を持ってきて、向かい合って座る。

 食べ始めながら、達巳が話を始めた。

「翔也、もうすぐ春課題のテストがあるな」

「そうだな」

「自信はあるのか?」

「ないよ。ほとんど春課題をまじめにやってないし。それに、これってあまり関係ないテストだろ?」

「そりゃ、そうだ。でも、順位は出る。貼り出されるのに抵抗ないが、あまりにも下だとそれはそれで嫌なもんだろ?」

「まぁーな」

 翔也は春課題のテストなど興味すらない。

 持ってきたスマホにイヤホンを差し込み、左耳だけイヤホンを装着し、音楽を聴き始める。

「なんだよ。そんなに興味なしだと、白けるな…。で、今、何の曲を聴いているんだ?」

「普通の曲」

「ふーん」

 達巳は、右耳用のイヤホンを持つと、自分の耳に当てて、翔也が何を聴いているのか、自分も聴いてみる。

「ああ、この曲ね。これって声優の赤瀬瑞葉だろ? 確か、最新のシングルを出した…」

「そうだ。別に俺が何を聴こうと勝手だろ? てか、ここで声優の名前を出すな」

「別に皆が皆、興味あるわけではないんだし、別にいいだろ?」

 達巳は、翔也にイヤホンを返し、再び弁当を食べ始める。

 二人が会話をしている一方で、三つ子は三人向き合って食べていた。

「三咲、そ、その……。な、何かあったのですか…?」

 一花が、小声で三咲に訊いてみた。

「え? 何が?」

 三咲は弁当を食べながら一花の質問を疑問に思う。

「からかわないでください。その…山下君と何かあったんですよね」

 それを聞いていた二葉は、耳だけ傾ける。

「んー。あったと言えばあったかな? でも、一花には、教えてあげない」

「なぜです⁉」

 一花は、少し声を上げてしまった。

「す、すみません。つい……」

 一花は三咲に謝る。

「いいわよ。でも、そんなに知りたかったら自分で推理すればいいじゃん。ここ、得意なんでしょ?」

 三咲は意地悪そうに、頭を指さす。

「くっ……」

 一花は言い返せない。

 それでも時間は過ぎていく。

(なるほど、本当に何かあったんですね…。教えてくれないということは、それだけ言えないこと。三咲の性格から推測すると、昨日、何かあった訳ですね)

 一花は一花なりに考えを探す。

 その様子を窺っていた達巳は、三人の行動を面白そうに思っていた。

(面白くなってきたな。今のところは三咲ちゃんが、一歩リードというところか。まぁ、一花ちゃんの場合は…。いや、そう、うまくいかないな。二葉ちゃんは、同じ部活なのに何もアクションを起こさない。様子をうかがっているのはわかるんだけど、もう少し積極的にならないと、この馬鹿は気づかないからな……)

 昼休みが終わり、掃除の時間が過ぎ、午後の授業も過ぎていく。


 放課後——

 翔也と達巳は、部活に向かうために荷物の準備をする。

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