唯は、自分が想像している男を考えると、寒気がした。

「さて、二葉、週末暇?」

「暇だけど…」

「そう。なら考えておく」

 唯は、笑みを浮かべた。

「え、何を考えるの⁉」

 二葉は、唯の言葉に疑問を浮かべた。


 コンビニに立ち寄った翔也と達巳は、肉まんでも食べながら、コンビニの前でたむろっていた。

「それにしても…現時点では、三咲ちゃんの事、満更でもないだろ?」

 達巳は、翔也に訊いた。

「あ? さーな。俺はともかく、向こうがどうなのかは分からない。そもそも今更、好きになること自体、おかしいだろ?」

「おかしくはない。現に三咲ちゃんとお前の中は少しではあるが、昔みたいに戻っている。でも、それだけじゃあ、駄目だ」

「………」

 翔也は話を聞いたまま、肉まんを食べ続ける。

「そこでだ。お前が三咲ちゃんと付き合いたいのなら俺はそれでも構わない。でも、優柔不断な男は嫌われるから気をつけろよ。まぁ、期限は二年以内だな」

 達巳は、食べ終わった肉まんのごみくずをごみ箱に捨てに行く。

(恋愛、そんなのあいつらといてそんなに思わなかったな。彼女ね…。ないな。絶対にない。そりゃあ、そうだ。あいつらの性格をよく知っているのは俺だしな)

 翔也は否定して、最後に一つ口を食べた。


     ×     ×     ×

 すがすがしい朝を迎えた週末の土曜日、リビングには翔也と夏海だけ。

 夏海がエプロン姿でせっせと二人分の朝食を並べる。

 目の前には、きつね色のトーストとコーヒー牛乳。

 そして、イチゴジャムの瓶が並べてある。

 こんがりと焼かれたトーストの香ばしい匂いと、綺麗に混ぜられたコーヒー牛乳の香りが、絶妙にマッチしている。

「いただきます」

「はいはい、召し上がれ。私もそろそろ食べようかな」

 二人して手を合わせてから、パクッとトーストを口に運ぶ。

「ごめんね。今日の朝ご飯、パンだけじゃ物足りないでしょ?」

「いいや。別にいいよ。たまにはパンでもいいんじゃないか? 俺には文句を言う資格はないよ」

「ありがとう」

 翔也と夏海は朝食を食べ終え、起き抜けの頭でぼーっと朝刊を翔也は流し読みする。

 新聞、は翔也が読み、その間に挟んであるチラシは夏海がチェックし、安いものを見つけたら、赤丸をつけていく。

 夏海がそれをスマホにメモし、買い物に出かけるのが、週末の流れである。

「夏海、今日の夜飯なんだ?」

「ええー、おにいちゃん。夜ご飯まだ先だよ」

「ま、なんとなく聞きたくてな」

「おはよう…。って、あんた達何してんの? 翔也、部活は?」

 母親が部屋から起きてきて、翔也に話しかける。

「ないよ。月曜日、春課題のテストだから今週はお休み」

 翔也が答えると、母親は小さく頷いて、部屋に戻っていく。

 だが、再びリビングに現れた。

「そういえば、今日の買い物、あんたが夏海に付き合ってあげなさいよ。たまにはそうしなさい。暇なんでしょ?」

「分かってるよ。夏海に付き合ってやればいいんだろ?」

 両親の夏海への愛情はすごい。女の子だからというのもあるが、家事をして、要領もよく、まだ、可愛い年頃なのだろう。

 それに引き替え、翔也は兄であり、最初の頃は可愛がられたが、どの家も女の子が生まれると、そっちの方に愛情が行ってしまうものである。

「分かっているならよろしい。ま、これくらいは頑張りなさいね」

「はいよ」

 と、お願いされるところは兄である翔也の役目である。

「で、自転車で行けばいいのか?」

「何言っているの? お金渡すからバスで行ってきなさい」

「ありがとう……」

 不覚にもありがたみを感じた。

 母親に言われて、ほっとする翔也。

「お母さん、バス代くれるんだ。ありがとう」

 夏海は、それを聞いて母親の元へ向かう。

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