Ⅵ
二人の目の前には、四台ほどの個室の部屋が設置されている。
「これって、まさか……」
「そのまさかよ。プリクラに決まっているじゃない」
翔也はそれを聞いて、逃げようとした。
だが、三咲は逃げようとする翔也をがっちりと腕を組み、プリクラの部屋へと連れていく。
「おいっ! プリクラだけはっ‼」
「いいじゃない! 付き合ってくれるんでしょ‼」
二人は部屋へと入ると、奥の方に翔也を置き、逃げられないようにした三咲は百円玉を五枚入れる。
「ほーら、正面を見る。正面…」
三咲は、翔也の左腕を組んだまま、笑顔でいる。翔也は顔を赤くしたまま、そっぽむく。
パシャ‼
一枚の写真が表示される。
「んー!」
ジロッ、と三咲は翔也を睨みつける。
「なれないんだよ。こういうのは……」
翔也はため息をつく。
「それじゃあ……。もう一回するから前を向いて」
「………」
「お願い」
三咲は真剣な目で、翔也の方を見る。
「はぁ…分かったよ…。変な顔をしても知らないからな…」
翔也は緊張しながら前を向く。
それを見た三咲は、何か思いついたかのように、パッ、と明るくなり、ニヤリ、と笑みを浮かべる。
「よし! 次行くよ! 翔君‼」
「お、おう……」
二人は機械の指示を待ち、写真を撮られるのを待つ。
そして、カウンタダウンが始まる。
三咲は、ドキドキしながら、一秒前になると、行動に移す。
翔也の肩に腕を回し、顔を翔也の顔、ギリギリまで近づけた。
二枚目の写真が撮られる。
「お、お前っ!」
翔也は写真を撮られた後、顔を赤くして、三咲と目が合う。
(こいつ、顔を近づけやがって…やべぇ…胸が苦しい…)
ドキドキが止まらない。
(んー。やっぱ、キ、キスくらいはしておくべきだったかな? で、でも…そこまでの勇気なんてないし……)
三咲は、顔を赤くして少し後悔していた。
「ほ、ほらっ、写真が出てくるし…出よっ!」
三咲がそう言うと、二人は外に出る。
写真がプリントアウトされて出てくる。
三咲は、それを嬉しそうに取り出して手にする。
「ほら、翔君、見て!」
写真を翔也に見せる。
「くっ……」
それを見た翔也は、言葉が出てこない。
こんなにも恥ずかしい写真は、捨ててしまいたい気分だ。
でも、こんなに喜んでいる三咲を見ると、本当にこれでよかったと思える。
「後で、翔君にも分けてあげるね」
「あ、ああ……」
翔也は、あまりうれしそうではないが、とりあえず返事をする。
「次は何をするんだ?」
「うーん…。それじゃあ……」
三咲は、近くにある大きなユーフォ—キャッチャー内にある抱きかかえるほどのイルカのぬいぐるみの方を指さす。
「ん? あれか?」
「うん。そう」
二人はその場所へと歩いていく。
イルカのぬいぐるみは、落ち口から結構近いところに設置されている。
三咲は試しに百円玉を入れてやってみる。
レバーを操作し、丁度いいところでボタンを押す。
「どう⁉」
アームがぬいぐるみに引っ掛かり、機械がそれを持ち上げる。
だが、途中ですぐに落ちてしまう。
「あー!」
三咲は叫び、がっくり来る。
(これはアームを弱めに設定しているな。これだと、確率が来ない限り取れない設定になっている……)
翔也は、すぐさま分析する。
そして、落ち込む三咲を見て、財布から百円玉を三枚取り出す。
「知っているか、三咲。これには二つの攻略方法がある」
「え?」
翔也はとりあえず、百円玉を一枚入れる。
「こんな言葉がある。ユーフォ—キャッチャーは、ある意味、貯金箱である」
「何それ…。誰の名言?」
三咲は首を傾げる。
翔也はレバーを動かしたまま、話し続ける。
「まぁ、どこの誰か、知らないが、本当に貯金箱と思わないか? 取れなければ、百円玉は貯まっていく。『塵も積もれば山となる』だな…」
ボタンを押し、アームを頭よりも胴体の位置に持ってくる。
「んー。確かに…言われてみれば…あっ…」
イルカのぬいぐるみは、再び持ち上がるが、滑り落ちる。
「でも、方法を知っている人間は大量にとっていき、店側は損だな…」
翔也は再び、百円玉を一枚追加する。
先程、落ちた影響で、尻尾の部分についてあるタグに、アームを微調節してボタンを押す。
アームはタグに引っ掛かり、微妙な態勢で持ち上がる。
そして、落ち口に落ちた。
「あっ‼」
三咲は驚いた。
翔也は、たった二百円でイルカのぬいぐるみを手に入れた。
「ほらよ…」
三咲にイルカのぬいぐるみを渡す。
「ありがとう…」
三咲はイルカのぬいぐるみを受け取り、大事そうに抱きかかえる。
翔也はスマホを取り出し、時間を確認する。
時刻は三時半。
帰るには丁度いい時間帯だ。
「三咲。俺は本屋によって帰るけど、どうする?」
「送って……」
「はぁ?」
「だって、帰りのバス、まだ、先なんだもん。どうせ、自転車できているんでしょ? だったら、家まで送ってよ! ほら、家が隣同士なんだし…」
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