「オーケー。分かった。俺にいい案がある」

 そう言って、眼鏡をキラン、と輝かせる。


 達巳が帰ったのは、午後二時過ぎ頃だった。

 お昼もまだだった翔也は、昼食を取るために外に出かけた。

 街の方に出かけるのは、本やゲーム、テニス道具を買う時にしか出かけない。

 久々に自転車で、街の中央へと向かう。

 平日なのに市内の中学生が、街を行き来している所を見ると、学校が始まっているところもあれば、明日、明後日から始まるところもあるのだろう。

 市で最も大きいショッピングモールまで二十分程かかった。

 自転車を駐輪所に置き、ショッピングモールに入ろうと思ったところだった。

「だから、やめてってば‼」

 と、女の子の大きな声が聞こえた。

 聞き覚えのある声だ。

 翔也は足を止めて、その声の方へと振り返る。

 そこには、男に囲まれた三咲の姿があった。

(あいつ、何絡まれているんだ?)

 私服姿の三咲は、三人の男達に囲まれながら、言い合いしている。

「ねぇ、ねぇ、俺たちと一緒に遊ぼうぜ」

「いいえ、興味ありません」

「奢ってあげるからさ」

「結構です!」

 三咲は、強気で断っているが、足元が震えている。

(おいおい、大丈夫か?)

 翔也は、三咲の方へと歩み寄る。

「だーかーらー、俺たちと付き合ってくれよ」

 と、男は三咲に手を出そうとしたところだった。

 ガシッ!

 翔也は三咲の目の前に現れて、男の手首をつかんだ。

「な、なんだ‼ てめぇは⁉」

「あのー、いい加減にしてもらえないですかね? こいつ、俺の連れなんですよ」

 翔也は男達を睨みつける。

「ああ? 何、勝手に出しゃばって出てきているんだ?」

 腕をつかまれた男はイライラしている。

「公衆の面前で女の子、一人を男三人で囲むとか恥ずかしくないのかよ」

 翔也は、負けずに言い返す。

 翔也と男達は、睨み合いながら沈黙が続く。

 すると、腕をつかまれた男が舌打ちをし、翔也の手を振りほどき、男達は静かにその場を離れた。

 男達の姿が見えなくなった後、気が抜けたかのように翔也は、ふぅ、と息を吐いた。

(何とかなったか……)

 肩の荷が一気に取れた気がした。

 翔也は後ろを振り向いて、三咲の方を見る。

 すると——

 三咲は翔也に抱きついた。

「あ、ありがとう……」

「あ、ああ……」

 翔也は返事をした。

 二人はその後、マックに入り、それぞれ好きなものを注文すると、向かい合いながら席に座る。

「それで…翔君はここに、たまたまお昼を食べに来たと……」

 久々に昔の名で呼ばれた。

「そうだな。半日、暇になったし…本を買うついでに…な…」

 注文したハンバーガーを食べながら、三咲の方を見る。

(こうして、二人でいるのはいつぶりだったか?)

 翔也は、ふと昔のことを思い出しながら、三咲の話を聞く。

「だ、だったら…遊んでいこうよ! ほら、帰っても暇なんでしょ⁉」

「ま、否定はしないけどな…」

 翔也はスマホ画面を見て、時間を確認する。

「でも、いいのか?」

「何が?」

「俺なんかといて、噂されると面倒だろ?」

 翔也は三咲の方をちらっ、と見る。

 三咲は少し考えたものの、すぐにニヤッ、として笑う。

「なんで? 別にいいじゃん‼ むしろ、私にとっては、それはそれで好都合だし…」

 ジュースの残りを飲み干すと、

「それに私、ほら、男子と遊んだのも翔君くらいだし、他に遊び方知らないもん!」

 翔也は、三咲の赤面する顔を見て、少しドキッ、とする。

 自分の前で本当の三咲を見たのは、何年ぶりだろうか。

「そ、そうか……」

「うん……」

「でもな…ほかの連中はよくても、あの二人に見られると不味いだろ」

 翔也は、一花と二葉のことを思い浮かべる。

「二人は関係ないじゃん! 私の方を見て‼」

 三咲は両手で、翔也の顔を触り、顔を近づける。

「……」

「………」

 二人は数秒間、見つめ合い、そして、パッ、と互いにそっぽむく。

「まぁ、その…なんだ…。分かったよ…。付き合ってやる…」

「う、うん……」

 二人は、残りのポテトなどを食べ終え、店を後にする。

 翔也と三咲は、二人で遊ぶのは久しぶりだ。

 並んで歩くと緊張して、自然と言葉が出てこない。

 周りからはどんな風に見えているのだろうか。

 私服姿の三咲は、学校とは、また、違う雰囲気を見せている。

「ねぇ、翔君。今からゲームセンターに行かない?」

「ん? ああ……」

 翔也は言われるままに答える。

「じゃあ、いこっか!」

 三咲は翔也の手を急に握り歩く。

 まるでデートを楽しんでいるカップルにしか見えない。

 二人は、エスカレーターで二階に上がり、近くのおもちゃ売り場を通り過ぎ、ゲームセンターの中へと入っていく。

「それで、一体何をするんだ? メダルゲームか?」

 翔也は三咲に連れられたまま、奥の方へと入っていく。

「そんなわけないでしょ。男女の二人がゲーセンに来たら、まず、するべきことがたった一つだけあるじゃない!」

 三咲は小悪魔の如く、ニヤニヤしながら言う。

「んー。金か? でも、あまり持ってきていないからな…。後は、太鼓の達人だろ?」

「いや、そうじゃなくて……」

 三咲は少し呆れる。

「ほら、着いたよ! 男女二人って言ったら、まず、これでしょ‼」

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