Ⅴ
「オーケー。分かった。俺にいい案がある」
そう言って、眼鏡をキラン、と輝かせる。
達巳が帰ったのは、午後二時過ぎ頃だった。
お昼もまだだった翔也は、昼食を取るために外に出かけた。
街の方に出かけるのは、本やゲーム、テニス道具を買う時にしか出かけない。
久々に自転車で、街の中央へと向かう。
平日なのに市内の中学生が、街を行き来している所を見ると、学校が始まっているところもあれば、明日、明後日から始まるところもあるのだろう。
市で最も大きいショッピングモールまで二十分程かかった。
自転車を駐輪所に置き、ショッピングモールに入ろうと思ったところだった。
「だから、やめてってば‼」
と、女の子の大きな声が聞こえた。
聞き覚えのある声だ。
翔也は足を止めて、その声の方へと振り返る。
そこには、男に囲まれた三咲の姿があった。
(あいつ、何絡まれているんだ?)
私服姿の三咲は、三人の男達に囲まれながら、言い合いしている。
「ねぇ、ねぇ、俺たちと一緒に遊ぼうぜ」
「いいえ、興味ありません」
「奢ってあげるからさ」
「結構です!」
三咲は、強気で断っているが、足元が震えている。
(おいおい、大丈夫か?)
翔也は、三咲の方へと歩み寄る。
「だーかーらー、俺たちと付き合ってくれよ」
と、男は三咲に手を出そうとしたところだった。
ガシッ!
翔也は三咲の目の前に現れて、男の手首をつかんだ。
「な、なんだ‼ てめぇは⁉」
「あのー、いい加減にしてもらえないですかね? こいつ、俺の連れなんですよ」
翔也は男達を睨みつける。
「ああ? 何、勝手に出しゃばって出てきているんだ?」
腕をつかまれた男はイライラしている。
「公衆の面前で女の子、一人を男三人で囲むとか恥ずかしくないのかよ」
翔也は、負けずに言い返す。
翔也と男達は、睨み合いながら沈黙が続く。
すると、腕をつかまれた男が舌打ちをし、翔也の手を振りほどき、男達は静かにその場を離れた。
男達の姿が見えなくなった後、気が抜けたかのように翔也は、ふぅ、と息を吐いた。
(何とかなったか……)
肩の荷が一気に取れた気がした。
翔也は後ろを振り向いて、三咲の方を見る。
すると——
三咲は翔也に抱きついた。
「あ、ありがとう……」
「あ、ああ……」
翔也は返事をした。
二人はその後、マックに入り、それぞれ好きなものを注文すると、向かい合いながら席に座る。
「それで…翔君はここに、たまたまお昼を食べに来たと……」
久々に昔の名で呼ばれた。
「そうだな。半日、暇になったし…本を買うついでに…な…」
注文したハンバーガーを食べながら、三咲の方を見る。
(こうして、二人でいるのはいつぶりだったか?)
翔也は、ふと昔のことを思い出しながら、三咲の話を聞く。
「だ、だったら…遊んでいこうよ! ほら、帰っても暇なんでしょ⁉」
「ま、否定はしないけどな…」
翔也はスマホ画面を見て、時間を確認する。
「でも、いいのか?」
「何が?」
「俺なんかといて、噂されると面倒だろ?」
翔也は三咲の方をちらっ、と見る。
三咲は少し考えたものの、すぐにニヤッ、として笑う。
「なんで? 別にいいじゃん‼ むしろ、私にとっては、それはそれで好都合だし…」
ジュースの残りを飲み干すと、
「それに私、ほら、男子と遊んだのも翔君くらいだし、他に遊び方知らないもん!」
翔也は、三咲の赤面する顔を見て、少しドキッ、とする。
自分の前で本当の三咲を見たのは、何年ぶりだろうか。
「そ、そうか……」
「うん……」
「でもな…ほかの連中はよくても、あの二人に見られると不味いだろ」
翔也は、一花と二葉のことを思い浮かべる。
「二人は関係ないじゃん! 私の方を見て‼」
三咲は両手で、翔也の顔を触り、顔を近づける。
「……」
「………」
二人は数秒間、見つめ合い、そして、パッ、と互いにそっぽむく。
「まぁ、その…なんだ…。分かったよ…。付き合ってやる…」
「う、うん……」
二人は、残りのポテトなどを食べ終え、店を後にする。
翔也と三咲は、二人で遊ぶのは久しぶりだ。
並んで歩くと緊張して、自然と言葉が出てこない。
周りからはどんな風に見えているのだろうか。
私服姿の三咲は、学校とは、また、違う雰囲気を見せている。
「ねぇ、翔君。今からゲームセンターに行かない?」
「ん? ああ……」
翔也は言われるままに答える。
「じゃあ、いこっか!」
三咲は翔也の手を急に握り歩く。
まるでデートを楽しんでいるカップルにしか見えない。
二人は、エスカレーターで二階に上がり、近くのおもちゃ売り場を通り過ぎ、ゲームセンターの中へと入っていく。
「それで、一体何をするんだ? メダルゲームか?」
翔也は三咲に連れられたまま、奥の方へと入っていく。
「そんなわけないでしょ。男女の二人がゲーセンに来たら、まず、するべきことがたった一つだけあるじゃない!」
三咲は小悪魔の如く、ニヤニヤしながら言う。
「んー。金か? でも、あまり持ってきていないからな…。後は、太鼓の達人だろ?」
「いや、そうじゃなくて……」
三咲は少し呆れる。
「ほら、着いたよ! 男女二人って言ったら、まず、これでしょ‼」
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